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特急料金

「で、また面倒な仕事を押し付けられてきたという事ですか?」


 多門は美亜に頭を掻いて見せた。俺の前に居る小娘が、机をばんばんと叩きながら騒いでいる。何でここの奴はみんな、こういうわざとらしい態度が大好きなんだ? 埃が飛ぶだろうが。書類がくずれたら、お前が直してくれるのか?


「その面倒なことを、さらに押し付けられる先の事も少しは考えてもらえると、嬉しいですけどね?」


 お前言う事が少し俺に似てきてないか? 嫁の貰い手がなくなるぞ。


「まあまあ、あーちゃん。そんなに多門君をいじめると泣いちゃいますよ」


 この人(おばさん)は本当に苦手だ。たぶんあの嫌味男と同じくらい苦手だ。


「裏に任せればいい話じゃないんですか? 闇から闇に、死人に口なし。いつの世でも常套手段ですよ」


 でもこいつはまだ俺よりはあほだな。そんなことしたら今度はこっちがその対象になるだろうが……


「あーちゃん。それが出来ないからこちらに回っている事は良く分かっているでしょう?」


「本当にめんどくさい」


 お前な、俺だってこんな面倒な仕事、いやに決まっているだろう。俺に当たってどうするんだ。


「で、どうするんですか?」


 結局お前も文句だけ言って、俺に丸投げじゃないか? 少しは頭を使え。


「普通に正しい手順で扱うだけだ」


 多門は後ろに倒した椅子を揺らしながら、仕事机の前でこちらをにらむ、若い女性にそう告げた。


「正規の手順という事ですか?」


 そう言っただろうが。お前は何を聞いていたんだ?


「そうだ。ただし、他から横やりが入る前に素早くやる。そしてすべて終わったことにする」


 おばさんが納得した顔をしてうなずいた。こいつはあほじゃない。だから嫌いなんだ。


「ある意味では書類仕事の()みたいなものだ。だから君達に頼んでいる」


 小娘も少しは納得顔になった。頼むから親の仇みたいに睨むのは止めてくれ。俺は何も悪いことはしてないし、お前にはする気もない。


「私達の仕事にも、特急料金みたいなものがあるといいのにね」


 おばさんのちょっと不満げな表情。金がほしかったら、こんなところにいないで森にいってくれ。その方が俺も清々する。

 

「今回は、その特急料金とやらも使うさ。こちらが払う方だがね」


 多門はそう言うと、若い女性に湯呑を差し出した。


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