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三流

 床板を支える為の丸太が、わずかな足場を提供している。柱の上にたどり着いた白蓮は、丸太に足を掛けた。丸みを帯びたそれは足場としてはかなり心もとないが、躊躇している時間はない。


 白蓮は柱を登るのに使った帯革を肩に回すと、丸太の上に飛び移った。続けてその先にある丸太に足をかけ、板の間の隙間に、指に掛けた鉤爪をかけて、体を壁に密着させる。多少の音は出るだろうが、ここは百夜ちゃんを信じるしかない。さらに丸太の間を跳び移って、入り口に近いところまで移動した。


 慎重に体重を移動させながら中を伺う。そこには床板いっぱいに、何かが敷き詰められるように並べてあった。いったい何だろうか? さっき入った里人は一番奥に居るため、その明かりの陰になって良く見えない。危険を冒して頭を高い位置にもっていった。


『人形?』


 それはとても精巧につくられた人形のように思えた。頭、顔、体、腕、足。だが床に並べたそれには、まったく動きがないように見える。いや違う。わずかにその胸が上下している。


 これは人形じゃない、『人』だ。良くみると並べられている人は男、女、背が高いものから低いものまで皆同じではない。だがそれが人形のように床一面に横たわっている。眠っているのだろうか?


 先ほどの里人が一番奥で、皆と同じように横たわろうとしている。その手にある角灯の揺らめきに、なんで自分が最初に人形だと思ったのか、その理由が分かった。


 ここに横たわっている人はすべて目をあけている。人々の瞳に角灯の黄金の光が写っている。まるで人形が人の振りをしているかのようだ。


 白蓮がもう少し体を安定させようと動いた時、丸太の上の樹皮がはがれる音とともに、自分が体重をかけていた右足から支えが失われた。『まずい!』落下する体から右手を伸ばして丸太を掴む。樹皮を失ったそこは滑りやすく、長くは体重を支えられそうにない。


 指先の鉤爪を立てて少しでも体重を支えつつ、左手で腰の後ろにある道具袋の中をさぐる。細紐を鉤爪につけられれば、下まで無事に降りられる。板の隙間から角灯の光が近づいてくる気配もした。さすがにこれだけ音を立てれば、何かがいると気が付くはずだ。


 あれ、ない!細紐が無い!?


「洗濯紐か!」


 思わず口から言葉が漏れた。ふーちゃん、勘弁してくれ。確認しなかった僕も悪いか。これだから僕は三流なんだな。これはマナのある無しとは関係がない話だ。角灯の気配が、戸口のところまで近づいている。もう猶予はない。


 白蓮は着地の衝撃を少しでも減らそうと、体を思いっきり振ってから手を離した。後は、下に岩やとがった枝とかがなく、無事に受け身が取れることを祈るしかない。


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