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「ふーちゃん、起きて。朝だよ」


 私を起こす白蓮の声がする。部屋に戻った私はいつの間にか寝てしまったらしい。落とし窓のすきまからわずかに光が入っている。頭が重い。戻ってからもしばらくは、お化けが怖くてなかなか寝付けなかった。


 恥ずかしいことにお腹もなる。思えば昨日の夜は何も食べてなかった。百夜ちゃんは私の足元でうつぶせに倒れるように寝ている。他のみんなはそれぞれ起き始めたところらしい。


 白蓮以外の皆さんはいつもの機敏な動作がない。世恋さんに至っては、マナ病で倒れた時のような青白い顔をしている。女の子の日だろうか? 私はというと寝不足で頭が重い以外は特に問題ない。あっ、体調以外では色々と切実な問題がある。


 リーン、リーン


 軽やかな鈴の音が下から響いてきた。いまいち体調が悪そうな方々に代わって、私が戸口のところまで顔をだした。周りは昨日と同じような霧がかかっている。下を見ると、緑香ちゃんが背中に籠を背負って立っていた。


「朝食をお持ちいたしました」


「餌か?」


 その声に反応して百夜ちゃんがむくっと起き上がる。さっきまでほぼ仮死状態だったのに、本当に身が軽いというか食いしん坊と言うか……。


「赤娘、さっさと取ってこい」


 何を偉そうに、という表情をした私に、


「昨日の事を……」


 と小声で呟いた。はいはい……。仰せの通りにさっさと取りに行きます。乙女の秘密は絶対に守らなければなりません。私は梯子を下りて緑香ちゃんの前に立った。


「おはようございます」


 私と緑香ちゃんの声が重なる。うんうん、この子はいい子だ。お化けではない気がしてきた。挨拶がちゃんと出来るおばけと言うのは聞いたことがない。


 私はにっこり笑うと、緑香ちゃんが後ろに背負っていた籠を受け取った。何これ? 八百屋の行商で鍛えた私でも結構重たい。梯子登れるかな? この子、これを平気な顔して持っていたんだ。


「基頼様が、夕刻に皆さんの歓迎の宴を行いますので、お越しくださいとの事です。ではこれで……」


 緑香ちゃんが私に丁寧にお辞儀をすると、来た道を戻ろうとする。


「ちょっと待ってください!」


 ここで帰られては困るのです。


「緑香さん、長い旅で衣類が大分汚れてまして、どこかでお洗濯をしたいのですが、そのお洗濯に使える水場などありましたら、是非に教えていただけませんでしょうか?」


 私は彼女に向かって深々とお辞儀をした。一刻も早くこの状態を解消しなければなりません。できれば食事など放っておいて、そちら優先にしたいくらいなのです!


「水場ですか? 分かりました。食事が終わりましたら、鐘をならしていただければご案内させていただきます」


「ありがとうございます!」


 私の中ではあなたは『お化けかも』から『天使』に大昇格です。思わず、彼女の手をとって感謝の意を伝えたく思った。『あれ?』何だろうこのすべすべな感じは? 私のような庶民の手とは違って赤ん坊のようないや、ちょっと人形のような感じもする手だ。


「『神』とやらはどちらにいらっしゃるんですかね? 『基頼』殿は朝になればお会いできるとおっしゃっていましたが?」


 背後から旋風卿の声がした。振り返るといつの間に降りて来たのか、少し青白い顔をした旋風卿と、明らかに私が持って上がるのが待てなかったらしい百夜ちゃんが居た。


「『神』でしたらあちらにおられます」


 彼女が私達の小屋の背後の空を指さした。昨日の夜にも見た恍惚の表情だ。その指先には霧の中に高く、とても大きな木の影があった。楡の木だろうか? それにし手も見たことのない高さだ。


「ごゆっくりおくつろぎください」


 彼女は私の手をゆっくりと振りほどくと、丁寧にお辞儀をして霧の中へと去っていった。


「遅いぞ、赤娘」


 私の横に立った百夜ちゃんが顔を上げて、霧の中にうっすらと見える木を眺めている。


「なんだあれは? まあいい、餌を早くよこせ!」


* * *


 緑香ちゃんが持ってきてくれた朝食は、青菜や木の実や豆、果実などから作られた実に健康によさそうな食事だった。ただ、どれも前菜のような感じなので、旋風卿や白蓮にはきっと物足りないかも? 干し肉大好きな百夜ちゃんも物足りない組かもしれない。


 でも果実で味付けされた青菜や、丁寧に水で戻された豆や、その戻し汁に香草や果実を漬け込んだものなんかは、私のような庶民の食卓には上らない、きっと貴族などの家の前菜とかででるようなものだろうか? もっともその辺りは、全て私の想像の産物に過ぎないけど。


 毎日こういう健康的な食事をしていると、緑香ちゃんのようなすべすべした肌になるのだろうか? 霧がよくかかるみたいだし、お肌にいいところなのは間違いなさそうだ。


「これ、おもかろいな」


 百夜ちゃんは、様々な果実で味付けされた朝食が気に入ったらしく喜んで食べている。ただ、旋風卿をはじめ、歌月さん、世恋さんの食の進みは遅い。


「口に合わないですか?」


 私は隣で無花果の実をゆっくりと口に運んでいた世恋さんに聞いた?


「おいしいですよ。でもあまり食欲がなくて。なんでしょうね? 夜も良く()()()()()()はずなんですけど……もしかしたらマナ酔いかもしれません。あとでお薬を飲めばよくなると思います」


 あの苦いお薬ですよね。多分効くと思います。私はあれで大分良くなりました。皆さんにはゆっくり食事をしてもらうこととして、私は直ぐにもやらねばならない仕事があります。


「皆さん!洗濯をしますので、よごれた衣類をすべて、さっさと出してください。直ぐにです!」



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