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冒険者達

 東の空が完全に白む前に旋風卿と歌月さんが偵察から戻ってきた。世恋さんのくれた薬が効いたのか、私の体調もだいぶ良くなった。百夜ちゃんは相変わらず死体のようにうつぶせに寝ている(息してますよね?)。


「探索路までの道筋は特に問題はないね。だけど途中は身を隠すところはないよ」


 歌月さんが林の入り口から外を伺いながら口を開いた。そして私達の方を一瞥すると言葉を続けた。


「ただ誰かが近寄ってくればこちらからも丸見えだから、森の中に潜んでいない限りこちらが奇襲を受けることは無いね。専門って訳ではないけど、一応は外から森を探ってみた範囲ではそれらしい気配はなかった。探索路周辺でも、最近だれかが野営などを行った形跡も足跡もない」


「下手に暗いところを移動して狙撃される危険を冒すぐらいなら、少し明るくなってから移動した方がいいということですか?」


 白蓮が、居並ぶい人々を見渡しながら質問した。なんか、ちょっといつものお調子者の白蓮とは違って見える。


「100年以上は森との境界線が変わっていないところだからね。探索路自体が道としてどこまで整備されているかは分からない。それに右手には動物が迷い込まないように柵が張られているから、攻撃を避ける点だけを考えればそれが一番いいね」


 歌月さんが答えた。やっぱりこの人も結社で見た夜会服を着ていた姿とは別人だ。


「こちらの姿をさらすことによる危険との比較ですな。我々を探すものがいればその者に情報を与えることになる」


 旋風卿は旋風卿ですね。何も変わりはありません。目立たないようにするためか巨体をかがめて、彼としては少しでも体を隠そうとしているのだろうけど、私には全く無駄な努力に見える。


「斥候は必要だね。全員一緒に移動だとこちらの情報を丸ごと与えることになる」


「斥候は僕が承ります。撃ち手としては役にたたないですから」


 ちょっとはにかんだ顔で白蓮が答えた。君はもっと自信をもちなさい、『自信』!


「白蓮、相手が人だからってなめるんじゃないよ。周囲警戒だけでなく、足跡や上も見逃さないようにね。急ごしらえの組はこれだから。専門家がいればいいのに、打ち手ばかりに能無し揃いとは困ったもんだ」


 歌月さんが、やれやれという表情で語った。


「つなぎは私がやります。短弓はあまり自信がないですけど、お兄様よりは目立たないはずです」


 背後側を警戒している世恋さんが、振り向かずに答えた。


「斥候は、森に馬で入れる位置をこちらに伝えながら移動をお願いします。つなぎには、いざという時の森への入り口の確保と入口から先の警戒もやってもらう。それとつなぎは忘れずに私の視界の中にいるようにしておくれ。こちらを待つ間の背後警戒も頼む。殿と風華殿の誘導は私が承ろう。世恋、体の調子は大丈夫かい?」


 旋風卿の問いかけに、世恋さんが何やら手と指を動かして答えた。何だろう、すごくかっこよく見える。この方も単なる超絶美少女という訳ではないんですね。


「つなぎは私と交代でやろう。その時はあの黒いのはまかせたよ。馬の蹄はどうする? 革で包んで少しでも音を減らすかい?」


 歌月さんが地面にうつぶせに倒れている百夜ちゃんを指差しながら告げた。


「難しいところですな。間を開けての移動ですし、とりあえずは逃げ足重視でよいかと」


 旋風卿の答えに歌月さんが頷いて見せた。


「あと、これはすぐに使えるところに携帯してもらいたい。いつものように準備して入るわけじゃないから忘れずに頼むよ。みんなの命がかかっている」


 旋風卿が細身の竹筒を皆に渡した。これって、あの白蓮の匂いの元ですよね? とうとう私もこれを被らなくちゃいけないという事ですか!?


「白蓮君、君は採取の専門家らしいじゃないか。途中の森でのマナ除けと水、食料の確保は君に任せる。馬も軍馬とはいえ、疲れがたまる。馬の水の確保だが、水源がある場所では多少の危険をおかしても馬に飲ませるのを優先すべきだな。基本、水場を見つけたら休憩だ。運んでくるとなるとそれが一番の重労働になるからね」


 白蓮が無言で頷く。よかったね白蓮、『八百屋』と呼ばれた君も今回は大活躍だ。


「警戒線を張る作業時間も考慮して、暗くなる前にこちらの姿が見えにくい場所かつ、森に逃げ込みやすい場所を探して野営する。遠くとはいえ民家があるこのあたりでは、火はほぼ使えないから皆そのつもりでいてほしい。汗で体を冷やさないように」


 旋風卿は最後に話をまとめると皆の顔を見渡した。


「ではみなさん、出発です」


 冒険者達が謎の手信号で答えて移動を開始する。この人たちは本物の冒険者なんだ。私の眼には素早く馬に荷物を積み込む白蓮が前より少し立派な男に見えた。


 そして自分がものすごく役に立たない、()()()であることを自覚した。


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