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重罪人

 自分としては()()()()()故郷の街に別れを告げたつもりだったのですが、実はまだお墓の近くの林で野営中です。要するにこれっぽっちも離れておりません。


 私としてはせっかくいただいた馬をかって、どこにあるかはよく分かっていませんが、『はいほ~!』と城砦に一直線のつもりだったのですが、旋風卿に『さあ、城砦目指して行きましょう!』と声をかけたら、ものすごくうさんくさい顔をして、さらに何やら困ったちゃんを見てあきれ返った表情をありありと見せて『準備も調査もせずに出発する方はいないと思いますけどね』と言われてしまった。


 あの馬鹿にした表情。今思い返しても恥ずかしさに耳の後ろあたりが熱くなります。という訳で、未だ一の街の近くに腰を据えて夕飯の準備に邁進しております。


 旋風卿はというと、父の墓を破壊(そのあと一応礎石は戻してはくれましたけどね。)して棺桶とは異なる何重にも油紙で密閉された木箱を取り出すと、この野営地になった場所に持ち込み、そこから何やら冒険者用の道具を色々と勝手に取り出して『流石ですね……』とか言いながら、中身を広げて納得していました。


 これって、一応は私の物のような気がするのですけど、広~い、広~い心と世恋さんに大変お世話になったことを勘定して、文句は言うまいと心に決めました。


 中には、父がずっと使っていたらしい武具やら防具やら、さらによく分からない各種道具(多分マ者さんを解体するやつとかですかね?)などが入っていました。特に各種道具類はご飯を作るのにも絶賛活躍中です。


 でも目新しいのもあって、白蓮や私に合わせたとしか思えないものや、なぜか赤ん坊用やら子供用らしきもの(一体何を狙っていたんですか?)も入っていて、子供用のものは百夜ちゃんにぴったりだったので助かりました。


 それより、お父さん『こういう事はちゃんと娘に言っておいてください!』。本当に()という生き物は好き勝手し放題で始末に負えないです!


 実際のところよく考えれば、世恋さんの体調は最悪だったのであのまま旅に出るというのは無理な話でした。考えが浅すぎてすいません。


 その後数日間は、旋風卿は父の遺品の遠眼鏡を手に、墓のある丘からじっと街の方の監視に注力していました。


 百夜ちゃんは、私の味付けをほめたりけなしたりと相変わらず。世恋さんは大分顔色も戻って私が会った時の超絶美少女力をかなり取り戻しております。


 白蓮と歌月さんは、街道やこの辺りの村などの様子を偵察に行っているみたいです。白蓮一人だとかなり心もとないですが、歌月さんが一緒なら大丈夫でしょう。


 私はというとともかく食事係に洗濯係として日々働かされており、多分「緑の三日月」にいた時よりもはるかに働いているような気がします。


 だって6人もいるんですよ、6人!この人達の食事の準備をするだけで「どんだけ~」という感じです。


 しかも食事は煙を見せないために、夜が明ける前に穴をほって他から見えなくした熾火で作る上に、旋風卿がうるさいので、せっせと丸盾であおったり、私のつたないマナ力で風を送ったりで煙を散らさないといけません。


 これ本当に重労働!ご飯だけでなく水の煮沸もこの時にやらないといけない。この人達すごいマナ使いの癖に生活技術はまったく持ち合わせていない()()()()なんです。


 さらには穴の中に入れたり出したりで腰が……。白蓮、お前ただ座ってそれを食べようなんて思うなよ!


 地面に頭を三回こすりつけて感謝の意を示してから食べなさい。虫よけ草とか、食事に入れる香草とかとってくる点で少しは役に立っているので特別に許してあげよう。


 でもこうして日々忙しく働いている方が、余計な心配などしなくてもいいのかも。家に『よごれたままの下着おいてきてなかったかな』とか、『前の肉屋の娘に押し付けられた怪しげな本とか見つかってないかな?』とか考え始めると気が狂いそうになります。


 ともかく旋風卿も、白蓮も、歌月さんもでかけてやっと一息ついたというところで、私は隣に座っていた世恋さんに色々と気になっていることを聞いてみることにした。


「お兄さんは、何であんなに街の様子を気にしているんですかね?」 


「兄は、追手がかかるのか、かかるならどれくらいかかるかを気にしているみたいですね。もしかしたら追手の後をついて行った方が、安全に行けるとかぐらいは考えているかもしれません」


 隣で楓の葉で蓋をした穴の中の熾火の世話をしていた世恋さんが答えてくれた。この方はこんな何気ないことをしてても本当に絵になりますね。


「よく分からないのですけど、なんで私達が追手に追われるんですかね?」


 世恋さんは、私の方をちらりと見るとにっこり微笑んで、


「それは私達が重罪人だからですよ」


 とあっさり告げた。


「重罪人!」


 そんなものになったつもりは毛頭ないのですが……。


「お聞きになっていませんか? 白蓮様やお兄様をはじめとした結社の皆さんは、この間の戦で森に入ってそこのマ者達を戦場に送り出しました」


 聞いたような気はするのですが……。生き残ってくれたことで十分なので、その辺りについてはあまり真面目に聞いていませんでした。


「森に入ってマ者を森から出すなんて言うのは、禁忌も禁忌の大犯罪です」


 ちょっと待ってください世恋さん……。


「結社の長、歌月さんのお父様の指示によるものという事になっていますが、それに関わった者はもちろん、おそらく『追憶の森』の結社全員に罪が問われると思います。単純に死罪ぐらいならいいですが今後の見せしめの為に簡単に殺してはくれないかもしれませんね」


 あの世恋さん、人ごとみたいにさらりと言っていますが……。


「世恋さん、それは私と百夜ちゃんもその中に入っているん……でしょうか?」


「もちろんです。結社としては『追憶の森』の結社そのものをなかったことにしたいくらいでしょうから」


 神様、私は何かあなたに恨まれるような事をしましたか? 家追い出されて、殺されかけて、つかまって、そして今や犯罪者で捕まったら即、殺されちゃうんですか?


 あまりにひどすぎて涙も出ません。


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