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委員会

「だから、面倒な奴を面倒なところに送り込むと、とても面倒なことになると言ったんですよ」


 何もない簡素な部屋に置かれた楕円形の卓の端に座っていた男は、部屋に一つだけ、自分の前に置かれた灯油に身を照らしながら手を前へ広げて語った。彼からは暗闇に沈む他の参加者の表情は読めない。


 『あんた達は、本当にこういう芝居かかった演出が大好きだね』


 男は心の中で暗闇の中の他の参加者に告げた。本当にばかばかしい。こんな演出をすると、権威とか威厳とかいうものがちょっとは盛られるとでも思っているのだろうか? そんな事を考えながら男は話を続けた。


「結社の者が先頭切って森に突撃。マ者を引き連れて森からとって返して、それを軍だか民兵だか何だかよく分からん連中が討伐!」


 もう一度、今度は芝居がかかった調子で手を大きく広げた。


「禁忌も何もあったもんじゃない。このまま調子こいて、また人が住めるところを減らすんですか? 今度という今度は人なんかこの世からいなくなりますよ」


 男は手を下すと椅子を後ろに傾けて、


「全部なかったことにはできないんですか?」


 と天井を見ながらつぶやいた。


「二つの街の五千もの住人達が目にしたものを無かったことにできるかね?」


 影の一人が低い声で答えた。


「これだから死んだふりの爺さん連中は本当にきらいですね。何を考えているか分かったもんじゃない。私みたいに偉くなって、他人を顎で使ってふんぞり返っていたいという手合いの方が安全、安心で、かわいいもんだと思いますよ」


「多門君、君の人生観や信条を聞くために皆ここに集まった訳ではない」


 影が男に忠告した。


「でしょうね。委員の皆さんが勢ぞろいですから」


 多門と呼ばれた男は態度を改めることなく、天井を見上げたまま答えた。


 別の影が多門に告げる。


「報告のために我々の送った査察官が監督官をつれてこちらに来る。奴は先触れも含めて正規の手順でこちらに送ってきた。内容的にも筋が通っている」


「確か監督官は娘ですね。あの爺さんにも親心ってやつがあったとは知りませんでしたよ」


「君は何か感想を述べないと息が吸えないのかね?」


 影のいらついた声が響く。


「申し訳ありません。根が正直なもので、心の声というやつが口から出てしまうんですよ」


 だが、この多門という男はそれを一向に気にする様子はない。


「分かっているかね? ()()な手順で送ってきた。だからこそここに君がいるということだよ」


 俺を下っ端扱いして顎で使うのなら、段取りまできちんと決めておいてもらいたいものだ。すべてこちらに押し付けておきながら偉そうな顔しやがって。


 男は心の中で居並ぶ影たちに悪態をつくと、床においた角灯(ランタン)を取り上げて、覆いを持ち上げると卓の上の油灯から火を移した。


 角灯の覆いを落とすまでの一瞬の間、卓にいならぶ10人の男達の顔が闇に浮かんだ。その表情は皆、苦々しさに満ちている。彼は男たちにわざとらしく丁寧な礼をすると角灯を持って部屋を出た。


 素直にくたばってほしいと思っていたやつが、より大きな厄介ごとを抱えて戻ってくるとは……。でも今回は直接俺の手に来た。あのすかした態度を改めさせられるというのは悪くない。


「そこだけ取ればちょっとはやる気がでるか?」


 男はそう呟くと、覆いをした角灯を片手に、迷路のような地下水路への階段をゆっくりと降りて行った。


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