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再会

「こんなものじゃ奴ら相手には役に立たないね。あいつらの相手はなるべく私がする。小娘達はすっこんでな」


 歌月さんは床に落ちていた小刀を拾うと、その長い髪を結んでいた髪紐をその小刀で切り裂いて、彼女の鳶色に光る髪を肩に下した。


「紅くらいささなくても、少しはいい女に見えるかい?」


 その長い髪を翻して私にそう聞くと、私の返事を待たないで上着を止めていた革ひもも、その小刀で切り裂いた。床に何かが落ちる金属音が響いた。それは彼女の上着を止めていた黒犬の牙だった。


 紐で抑えられていた彼女の豊かな胸が上着の上から零れ落ちそうに見える。私は自分の髪を結んでいた紐を外した。白蓮ほどではないが、おさまりの悪い跳ね毛の赤い髪が肩に広がった。


「歌月さん、舐めないでください。私だって女です。世恋さんに手は触れさせません」


 そう言ってはみたものの、手と足の震えが止まらない。そんな私を見て歌月さんがくすりと笑って見せた。


「さすが、私が惚れた男の娘だね。見直したよ」


 歌月さん、ちょっと待ってください。やっぱりあなたは父の何だったんですか!?


「あははははは。それに風華。あんたも結構いい女だよ」


 途方に暮れた表情の私を見て、歌月さんが大笑いした。


「ちょっと待ってください。私だって女ですよ」


 気が付くと世恋さんが、長椅子の上で上体を起こしてこちらを見ていた。良かった、本当に良かった。思わず止まっていた涙がまた流れる。だがその顔色は依然青白く、今にもまた倒れそうな表情をしていた。


「でも誰が一番いい女か競争するのは、もうちょっと先になりそうですね」


 外でなんかとてつもなく大きい音がしたかと思うと、金属製の何かが通路を転がっていく音が続いた。


「アル・マイン殿。殺すなよ。私に面倒をかけるな」


 どこかで聞いたことのあるような冷徹な声が響いた。その声を聞いた歌月さんの顔がちょっと引きつる。


「アルさん、ちょっと待ってください。これ、通れないです」


 これもどこかで聞いたことがある間抜けな声だ。私の目からまた涙がこぼれそうになる。


「どきたまえ」


 これもどこかで聞いた不機嫌そうな低い声。取り扱い注意の類です。


 何かがぶつかり、扉がすごい音をたてて床に転がった。後ろに人がいたらどうするつもりだったんでしょうか?


 その穴の向こう側、油灯の揺れる光の中に、見たことがあるような気がする大男と見慣れたおさまりの悪い髪が見えた。


「世恋!」「ふーちゃん!」


 二人の男が同時に呼びかけてきた。


「お帰り白蓮」


 私はなるべく平静をよそおって、おさまりの悪い髪の男に小さく手を振ります。


 あれ世恋さんは?


 なんと世恋さんは、先ほどの扉の風にあおられて長椅子ごと後ろに倒れて目を回しています。この方は美少女で天然なうえに、ちょっとどじっ子というやっぱり『無敵種』だったんですね。


 旋風卿と白蓮(!)が慌てて世恋さんに駆け寄った。

 

 あれれ、は~く~れ~んく~~ん。おまえはどこに向かっているのかな?


「お前達、やっぱりおもかろいな」 


 手の傷をなめながら、白夜ちゃんが私の横でつぶやいた。気が付くとその右目は、いつものようにうすく開いた瞼の隙間から、充血した白目が少し見えるだけだった。


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