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赤い月

「風華!」「風華さん!」「お姉さま!」「風華さん」


 辺りは既に真っ暗ですが、城砦の馬車溜まりに着いてこの方、私は既に4名の方に怒鳴られ続けております。あの、一応この男は結社長ですよね。


 結社長を助けに行って、こんなに怒鳴られるというのは一体どういうことなんでしょうか?


「何故、何かする前にこちらに相談しないのですか!?」


 はい、伊一さん。おっしゃる通りですが、相談したらきっと止められると思っていたのです。


「お姉さま、今度私をおいてこんなことをしたら殺します!そして私も死にます」


 実季さん、殺して死ぬというのは無意味ですし、もし私が死んでいた場合はもっと無意味だから絶対にやめてください。というか怖すぎです。


「どれだけ心配したか分かっているのですか、白蓮さん、風華さん!」


 あれ、世恋さん。いつの間にここに来たのですか? それに白蓮が先ですか?


「分かっているのですか、勝手に監視所に行くというのは命令違反です!」


 美亜さん、命令違反は重々承知しておりますが、あなたの男を連れて帰ってきましたので、そんなに怒らなくてもいいのではないでしょうか?


 私を怒鳴りつけるよりですね、あの男を説教するとか、あの男に抱き着くとか、もっとすることがあるような気がしますが?


「そうだ、風華。お前は指揮系統という物を理解していない」


 ちょっと待て死にかけ男。お前は助けてもらった立場だろうが?


 ここで私が他の女性の名前を口にしたなんて美亜さんに言ってごらんなさい。この件幕ですよ。血の雨が降ると思います。東の空を見てください。関門の上から月が、真っ赤な月が昇っていますよ。あんな感じです。


「風華の事は、とりあえず後だ。命令違反に関する懲罰についてはとりあえず俺預かりとする」


「えっ!懲罰ですか!?」


 私は隣にいる白蓮を見たが、白蓮は私に向かって肩をすくめて見せるだけだ。お前は私の為に何か異議申し立てとかしないのか? それにちょっと待て、「風華」と言いましたよね。何で私だけなんですか!? 懲罰の対象になるなら白蓮も一緒ですよね!?


 流石にこれについては異議申し立てをしようと口を開きかけたが、皆の冷たい視線を浴びて口をつぐむことにした。きっとここで何を言っても藪蛇という事なのだろう。なんだかな。


「白蓮さん、ご無事で本当に良かったです!」「白蓮、心配したぞ!」


 私達を見つけたらしい創晴さんと千夏さんがこちらに駆け寄って来る。千夏さんは白蓮の元まで来ると、そのまま白蓮に抱き着いた。白蓮が恐れおののいた顔をしてこちらを見ている。お前は何で私をそんなに恐れるんだ?


 あなたとの関係は単に元家主と元居候の関係だけです。それに弟子ですからね。このぐらいは許してあげましょう。許せるかな? なんか腹が立ってきた気もする。


「風華!」「風華さん!」


 あれ、とても懐かしい声がする。君達はどこから湧いてきたんだ。マ者もどきが化けている訳じゃないよね!


「才雅に、朋治さん!」


「なんで、朋治だけさん付けなんだ?」


 才雅がどうでもいいところで突っ込みを入れてくる。あんたに「さん」なんてつけると別の誰かを呼んでいるみたいじゃないですか?


「いや単になんとなくですよ。そんなことはどうでもいいでしょうが!それよりどうしてここ(城砦)に?」


「実は研修の再挑戦で来ていたんだが、関門の冒険者も全員ここに集まれという事になっているらしいから、まあ今は俺らも城砦の冒険者の一味というところか」


 なんて水臭い!


「この男共!もっと早く連絡しろ!」


 私は二人に抱き着いた。白蓮がびっくりした顔でこちらを見ている。どうだ、少しは私の気分が分かったか!いや、そんなことはないですね。やっぱり感動というのはちゃんと表に出さないといけません。千夏さん、さっきはすいません。腹を立てた私が間違いでした。ごめんなさい。


「あれ、百夜は?」


 才雅が私の周りを見回した。そうだよね。君達からみたら私とあれはずっと一緒だと思うよね。


「百夜は私達の元を離れたの。どこかで元気にやっていると思う」


「何だって!?」「そうか」


 才雅が何か言おうとしたが、朋治さんにその口を押えられている。そして朋治さんが私に頷いて見せた。うん、どちらもありがとう。言いたいことと気を使ってくれていることは十分に伝わっているよ。


「それより美亜、関門への退去の進捗率は?」


 多門さんが傍らに控えた美亜さんに問い掛けた。


「ほぼ完了しました。現在は籠城準備中です。人員についてはほぼ関門への終結が完了しています。物資については馬車溜まりへの移動はほぼ完了。下の馬車溜まりから上へと上げている最中ですが、これは間に合わない場合は見切るしかありません。特殊な物で無ければ関門からも供給は期待出来ます」


 多門さんの問いかけに美亜さんが素早く答えた。流石です!


 多門さんもさっきまでは半分以上死んだ状態だったが、今はだいぶ血色も良くなっている。やっぱり()()()ですよね。間違いありません。今度あんな真似をしたら、私がお前に懲罰をくれてやります!


「分かった。物資については弓と弩など投射が可能なものを優先しろ。それと音響弾の準備もだ」


「音響弾ですか?」


「そうだ。(とばり)も出てきている。おそらくこちらを襲ってくる最初の奴は間違いなく帳だ。それにこれまでの経緯を考えるとそろそろ橋も出来てもおかしくはない。残念ながら俺の力も時間稼ぎにしかならなかった様だ」


 帳と言う言葉に居並ぶ面々の顔が緊張する。やっぱりあの蝙蝠もどきは相当に厄介な相手なのだろう。


「関門の指揮は?」


「ご命令通りに学心全権と旋風卿がとっているはずです。実際の人員への指示伝達は柚案事務官長並びに鹿斗工房長が担当しています。城砦に残っているのもここに居るものがほぼ最後です。それと最低限必要な書類類の退避作業も完了しています」


「何でさっさと……。お前達も赤毛達の事が心配だったという事か?」


「はい。そして『いいえ』です」


 美亜さんが多門さんに少しはにかんだ様に答えた。おい、そこの情緒なし男!その「いいえ」の意味が分かっていますか?


「了解だ」


 何て最悪な答え!やっぱりあんたはそこに膝をついて座りなさい。私が女性の扱いについて教えてあげます!


 だが文句を言おうとした私の腕を白蓮がそっと引いた。そして小さく首を横に振って見せる。分かりました。人の恋路に口を出すなですね。


「では馬車が待っていますので、全員馬車の方へ移動をお願いします」


「美亜さん、了解です。あれ、美亜さん?」


 美亜さんの義手から書類の束が落ちた。美亜さんが体を曲げて何やら手で顔を抑えている。


「ううぅぅうぅ」


 その口から何やら苦し気な声が漏れてきた。私が美亜さんのところに駆けつけようとした時だった。


「世恋さん!」


 背後で白蓮の声が上がった。崩れ落ちそうな世恋さんの体を白蓮が支えている。一体何が起きているの?


「あっちちちちち!」


「お姉さま!」


 私の革帯でお尻の辺りにぶら下げている道具袋がまるで火がついたように熱い。慌てて道具袋を体から離す。これって例の石だ。


 もしかしてあのおばさんは仕返しをするために、この危険物を私に渡したのだろうか?


「美亜!大丈夫か? 美亜!」


 ふらふらながらも、多門さんが美亜さんのところに駆け寄った。


「だ、大丈夫です。ただ急に右目が……」


「風華さん!」


 美亜さんは多門さんの手を払いのけると目から右手を外して私の肩を掴んだ。


「はい、美亜さん。なんでしょうか?」


「百夜よ!あの子がいま何を見ているのか分かった」


「えっ!どこに、どこに居るんでしょうか!?」


「間違いない。彼女はそこに居るの。そして私達の方を見ている」


 美亜さんはそう言うと、城砦がある渓谷の左手の山の方を指さした。あれは山の上にでも登っているというのだろうか?


 だが美亜さんの指は山の上の方を指していない。その裾の方にあるかすかに濃紺色の空に見える黒い影を差していた。


「もしかして――」


「そうよ、本城砦よ!」

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