表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
406/440

会議

「身内同士で話をしていないで、少しはこっちの話も聞いて欲しいんだけどな?」


 多門はそう言うと、立ち上がって会議室の面々を見回した。会議室には大きな会議机の前に座っているものと、その背後の椅子に座っているものに分かれている。そして会議机の前に座っている者たちは、どちらかというと後ろを振り向いて話をしている時間の方が、前を向いているより長かった。


「慣れていないもので色々と確認しないと……」


 この会議室でもっとも若く見える男性、創晴が多門に向かって詫びの言葉を告げた。


「そもそもこんなに付添人だの後見人だのが一杯の会議なんてものは聞いたことがないぞ!」


 多門が創晴や他の者に向かって苦々し気に叫んだ。


「多門さん、あんただって分かっているだろう。これだけ行方知らずが出たんだ。一人じゃ話にならない」


 創晴の背後に座っていた用哲が多門に向かって片手をあげて見せた。


「それでも普通は連れてきても一人だろうが? 何で探索組は二人もくっついて来てるんだ?」


 創晴の背後に座っていた仁英と用哲が顔を見合わせると、仁英が多門に向かって口を開いた。


「色々とこちらにも都合があるんだよ」


「ならば、最初から付添人の方が組頭になればいいじゃないか?」


 多門の指摘に、二人の前に座っていた創晴が手を叩いて同意した。


「多門結社長補殿。その通りですよ。この二人に良く言ってやってください」


「創晴、当事者が何を言っているんだ」


 仁英が後ろから創晴の頭を思いっきり叩くと、二人は会議などそっちのけでお互いの胸倉をつかもうとしている。うんざりした顔の用哲が二人の間に割って入った。


「仁英、嫁さんにちくるぞ。それに創晴、お前は千夏だ」


「なんで嫁が……」「なんで千夏が……」


 二人の向かい側に座っていた人物が二人の会話に割って入った。


「ところでこの会議というのはもう始まっているんですかね? それとももう終わったんですか?」


 男はそう告げると周りを見回した。多門が立ち上がったまま発言者に向かって指をさした。


「どこをどうみたら終わったように見えるんだ? 旋風卿、いやアル監督官長殿。いつの間にか耳が遠くなったか?」


「あんた達二人は風華の言うとおりだね。どちらも嫌味を言わないと空気が吸えない人間らしい」


 そう言うと、二人の間に座っていた歌月が両手を上げて見せた。多門が今度は歌月を指さした。


「歌月査察官長殿、できればその名前は縁起が悪いので出して欲しくない。それとさっきの発言の真意はどこにあるのか説明してもらえないかな?」


「いい加減にしてください」


 多門の隣に座っていた美亜が、多門の上着の裾を引いた。美亜の表情をちらりと見た多門は、わざとらしくため息を一つつくと席に座った。


「これは失礼したね。落夢卿。いや、美亜研修組組長殿」


 歌月も美亜に向かって片手をあげて謝って見せる。


「念次さん、会議っていつもこんな感じなんですか?」


 多門の右手に座っていた伊一が、背後に座っていた念次の方を振り返って聞いた。伊一の顔にはまだ新しい火傷の跡がある。


「さあな、桃子に任せっきりだったから分からないが、一日仕事だというのは間違いないな」


「念次さん、絶対に私をはめましたよね?」


「伊一、まだ傷は完全に癒えたわけじゃないんだ。お前にはこの仕事こそが適任だよ」


「主任が働きすぎで体なんて壊すからですよ。傷が癒えたら主任か念次さんに必ず代わってもらいます」


 そう言うと伊一は念次に向かって念を押すように指をさしてみせた。そのやり取りを見ていた多門がうんざりそうな表情を見せると、


「だからそこ、勝手に身内で話すんじゃないと言っているんだ!」


 と告げた。多門の言葉に伊一が慌てて前を向く。


「皆さんお静かに。遠見卿、いや結社長からお話があるようです」


 会議室の奥の方で、遠見卿の隣に座っていた柚安が右手を上げて発言した。その言葉に思い思いに勝手にしゃべっていた会議室の面々も話をやめて前を向く。


「ありがとう、柚安指揮官長。いや今は事務官長でもあったかな?」


 遠見卿はそう告げると、右手に座っていた柚安をちらりと見た。


「諸君、今回集まってもらったのはお互い良く知った者同士だとは思うが、大分に肩書が変わったのでそれの紹介が一つだ。それについては先ほどの一連の談義で、ほぼ解決したものと思っている」


 そう言うと、会議室の一同をじろりと見まわした。さすがにこれについて発言をする者は誰もいない。


「よろしい。では二つ目だ。私の方からこの場を借りて諸君らに提案したいことがいくつかある。続けていいかな?」


 そう告げると、遠見卿は再び会議室の中を見回して発言者がいないか確認した。もちろん割り込む者など誰も居ない。


「では一つ目の提案だ。先日行われた月貞前結社長の葬儀をつつがなく行う都合、私の方が結社長を拝命させていただいたがそれを返上したい」


「遠見卿!」


 横に長い会議机を挟んで、反対側に座っていた多門が思わず声を上げた。だが遠見卿は右手を軽くあげて多門を制すると、言葉を続ける。


「諸君らもよく分かっていると思うが私の健康状態は極めて悪い。正直なところ、ここにこうして座っているだけでも大層つらいのだよ。とてもじゃないが結社長のような激務をこなすことなどできない。このままでは単に皆に迷惑をかけるだけだ」


「遠見卿、お体が治るまでここに居る一同で回しますので……」


 多門が黙って聞いてられないとでもいうように言葉を発した。だが遠見卿は今度は目で多門の続きを制する。


「多門君、出来れば最後まで私の提案を聞いてもらえるかな?」


「はい、結社長。申し訳ありません」


 多門がいかにもバツが悪そうに遠見卿に向かって頭を下げた。


「ついては次期結社長として多門君を推薦する。またその決議時点をもって、彼に次期結社長の任についてもらいたいと思う」


「ちょ、ちょっと待ってください遠見卿!そんな話は何も聞いていません!」


 遠見卿の発言に多門が下げていた頭を上げて叫んだ。その顔には驚愕としか言いようのない表情が浮かんでいる。


「発言の通りだよ多門君。それにこの件については君が知る訳はない。本日はじめて私の方から提案させていただいたのだからね」


 慌てふためく多門に対して遠見卿が冷静に告げた。


「遠見卿! 私を殺すつもりですか? 今でも裏の面倒を見るだけで十分に死にそうなんですよ!」


 たまらず立ち上がった多門が遠見卿に向かって拳を振って見せた。


「多門君、僕はもともと表とか裏とか言う表現自体が気に入らなかったのだよ。指揮系統という物は一本化されていてこそ意味があるのではないのかな?」


 そう言うと、隣に座る柚安の方を振り向いた。


「遠見卿、ご指摘の通りです」


 柚安はそう告げると、遠見卿に向かって深くうなずいて見せた。


「それと結社長以外の件についても、私の方から人事に関する提案がいくつかある。狩り手組の組頭には堅盾卿を推薦したい。また先行組の組頭については呪符卿を推薦する。両名とも二つ名としてそろそろ責任ある立場についてもらうべきだ。そもそも例の件に絡んでいるのだ。そうしてもらう必要がある。なお解体組と救護組および、会計方、商方についてはその専門性を鑑みれば、内部からの推薦をもって長を選出すべきと思う」


 会議室の空いている座席に関する遠見卿の発言に、会議室の面々が頷いて見せた。


「なお、会計方、商方の後任が決まるまでは、備え方の鹿斗工房長に備え方の長と共に兼任してもらう」


「えっ! 俺ですか!?」


 会議室の一番目立たない席で、一番目立たないように座っていた鹿斗が声を上げた。


「予算編成からその執行まで、やっていることは君の所とさほど変わらないだろう」


「まあそう言われればそうですけどね。後任の決定は可及速やかでお願いしますよ。そこの落夢卿ぐらいの事務能力がある人を片手、いや出来れば両手ぐらいつけてもらわないと、多門さんより前に私が過労死です」


 そう言うと真剣な顔をして美亜を指さした。


「それと物見方だがこれは事務方、特に指揮官と統合することを提案する。この両者を分けて運用することに全く意味はない。なので柚安指揮官長、物見方も君に引き継いでもらう」


「遠見卿はどうされるのですか?」


 そう言うと、柚安は傍らの車いすに座る遠見卿の方を見た。


「私かね? 命があるうちに引退させてもらう。君達だってやっと月貞前結社長の弔いが終わったばかりだというのに、もう一度結社長の葬式をやりたい気分かな?」


「遠見卿!」


 たまらず多門が声を上げた。


「これは客観的な事実という物だ。これでも私は元は医事方の人間だよ。そうだ、忘れるところだった。医事方については横紙破りをさせてもらいたい。私の後ろに居る弥勒君を医事方の長として推薦させて頂く。この件については医事方には話は通してある。なので後は君たちの採決をもって決定してもらえると助かる」


 そう言うと遠見卿は右手をかるくあげてみせた。


「では時間もない。最初の提案についての採決に移らせてもらってもいいかな?」


「遠見卿、待ってください。せめて相談とかしてくれてもいいじゃないですか!いきなりすぎです!」


 そう叫んだ多門に対して、遠見卿はやれやれという表情をすると、左手に座る学心の方を指さした。


「多門君、これは私からの非公式かつ個人的な提案だが、そちらの学心司書長からの報告によれば、独身の結社長は短命な方が多いそうだ。君には可及速やかに伴侶を得ることも合わせて提案したい」


「遠見卿!」


 遠見卿は多門の呼びかけを無視すると、会議室を見回して賛同者は手をあげるように即した。


「多門結社長補、あなたは当事者だからこの件について採決への参加権はない。少し黙っていたほうがいいと思うがね」


 そう言うと、旋風卿はおもむろに右手を上げて見せた。見れば立ち上がっている多門以外の全ての者の手が上がっている。そして美亜も多門の横で小さく右手を上げていた。多門が呆気にとられた表情で一同を、そして美亜を見る。


「おい、そこのでかいの。お前こそ口を、何だ!? お前らみんな俺をはめたな。美亜、まさかお前までか!?」


「はい、室長。違います。私も初耳です!」


 美亜が右手を小さく上げながら、多門に向かって背筋を伸ばして答えた。


「美亜、それはどっちの話だい?」


 右手をめんどくさそうに上げていた歌月が、美亜に向かって首を傾げて見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ