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救援

「風華さん、助けるってどうするんですか? 気合だけじゃだめですよ」


 碧真さんがいい加減にしろと言う顔でこちらを見ている。


「向こうとは自主自立という事で話はついているはずです。それにそこのお嬢さん、貴方の隊の労務長と会計長とは、貴方達を助けたら、貴方達を連れて一目散に逃げるという段取りになっています。勝手な行動は困ります」


 そう言うと寧乃ちゃんを見た。寧乃ちゃんは何か言いたげな顔をしていたが、労務長と会計長という言葉が効いたのか、何も言い返さずに俯いた。碧真さん、子供をいじめちゃだめです。大人げないです。


「段取りなんかはどうでもいいんです。元商人としては借りを返さないといけないんです」


「だから気合だけじゃ……」


 碧真さんが何かを告げる前に先手を取る。女性に口で勝てると思ったら大間違いです。


「思いつきました。村でやったのと同じ手でいきます」


「村ですか? ちょっと待ってください。また火を着けるつもりですか?」


 人を()()()みたいに言わないでください。それに村で宿屋に火をつけたのは、碧真さんに実季さんですよ。


「はい。この倉庫と母屋に火を放ちます。さすがにほったらかしには出来ないでしょうから、火を消すのに人手を取られるはずです。それに世恋さんの方が重要人物のはずです。それがその辺をうろちょろしていたら、もっとほっとけないですよね」


「それを助けに来たんでしょう!」


 碧真さんのするどい突っ込み。だけどここで負けてはいけません。


「はい。皆で皆を助けに来たんです。こっちは世恋さんが二人ですからね。二倍ひっかきまわせます。それに朝霞さんはこの屋敷には詳しいはずですので、火元になりそうなところに案内してもらいます。それと火事だ~~って逃げるように叫びまわってもらいます。まあ、あれだけ鐘がなりましたから、寝ている人はいないでしょうから大丈夫ですかね?」


 とりあえず朝霞さんの方を見ると、私に向かっておそるおそる頷いて見せた。さすがに今回は極悪人かどうか判断がつかないので、そのまま丸焼きには出来ないですからね。良かったです。


「さらに朝霞さんも二人です。それに碧真さん!あなただってこの屋敷の侍従なんですよ? 何も問題なしです!」


 この一言で碧真さんにとどめを刺す。どうです? 二の句が告げないでしょう?


「私はお二人の案内でこちらに逃げてきたことにしましょうか? だって大事な人質ですよね? できれば、美亜さんにはこの屋敷の警備員あたりに化けてもらえればいいのですが……そこまでは無理かな?」


「さすがは私達の組長さんです。面倒な事は抜きです。ぱっと全部燃やしてしまいましょう!」


 世恋さんが私の案に同意してくれた。それに何やらとっても嬉しそうに見える。


「お嬢さん、あんたの実家じゃないのか?」


 碧真さんが驚いた顔をして世恋さんの方をふり返った。


「ええ、何の問題もありません。すっきりします。それに偽物さん、風華さんの案は良い手だと思います。私だってこの屋敷にはとっても詳しいのです。何せ私の実家ですから。離れの方も何とかなると思います」


 そう言うと、世恋さんは左足を下げて右手を前にすると、とても優雅にお辞儀をして見せた。


「マイン家にようこそ。皆さんを当屋敷の裏通路にご案内させていただきます」


* * *


「どうやらこっちを殺す気は無さそうですが、完全に追い詰められましたね」


 労務長が実苑の方をふり返って告げた。


「ここの人間に化けただけじゃ、中々うまくはいきませんね」


 会計長が労務長に同意した。


「寧乃達は無事に逃げたかな?」


 労務長がつぶやく。


「さあ、どうでしょう? あの塔の警備はとても固そうでしたからね」


「どうします? そろそろ両手をあげて降参しますか?」


「どうだろうな。潮時のような気もするが、もう少しは頑張らないと、役に立たないと思われて本当にお終いの様な気もする。もう少し粘りというか、捻りがないとだめだな」


 実苑が労務長に向かって首を傾げて見せた。


「もう大概何も手はないんですがね。寧乃が居ればこの壁をぶち抜いて逃げるとか、色々手はあるんですが……」


「もう皆さん、こんなところで愚痴ってるなんてだめだめですね。それに労務長、少しは私のありがたさが分かりました?」


 三人が顔を見合わせた。その声はその部屋に据え付けてあった机の下の板の隙間から聞こえてくる。その床板がぽんとはずれたかと思うと、そこから小さな子供の体が這いずり出てきた。


「実苑隊長、お久しぶりです。それにご無事で何よりです」


 這い出してきた子供が、実苑に向かってちょんと頭を下げた。


「寧乃!?」


 労務長が驚いた顔で少女を見る。


「もう、こんなところに入り込んだら袋の鼠じゃないですか? 皆さんこちらからさっさと退出してください。それと会計長、マ石の補充です」


 寧乃が腰につけていた革袋をひょいと会計長に渡す。その中身をあらためた会計長が、驚いた顔をして寧乃の方を見た。


「これって……」


「この家の関係者から頂いたので、盗んだことにはならないと思います。これだけあれば、会計長ならあちらこちらに仕掛けまくれますよ」


 そう言うと、袋からマ石の一つを取り出して手の上でこすった。微かな光と黒い煙のようなものを残してマ石が消える。


「時間がありません。皆でこの穴から降りてください。降りた先に出口に案内できる方が待っています。私は少し暴れさせていただいて、この穴がばれないようにしてから降りて行きます。では皆様、抜かりなきようお願いします」


 労務長の合図に、隊員達が次々と穴へと消えていく。


「寧乃、やりすぎるなよ」


 そう言うと、労務長も穴の中に降りた。続いて会計長に、実苑も穴に身を躍らせる。


「よくやった寧乃」


 半身を穴にいれた実苑が寧乃に声をかけた。


「残念な事に、これは全部あの赤毛さんのお陰なんです。隊長、確かにあの人は強い人ですね。とっても強いです」


 実苑は寧乃に向かって苦笑すると、手を振って穴の中へと消えていった。


* * *


 私達は実苑さん達の隊商と一緒に、彼らの隠れ家に向かって走っている。背後の林の先では真っ赤な炎が上がっているのが見えた。その炎は空の雲迄も赤く照らし、まるで朝日が昇る前の朝焼けの様だ。


 追手はかかるかもしれないが、愛佳さんが色々と仕掛けをしてくれたので、油断はできないがすぐにこちらに追いつけるとは思えない。それに応援にくる人達も、先ずはあの火事をどうにかするために屋敷の方に向かうはずだ。


 世恋さんが隠し通路に案内してくれてからは、すべてが順調だった。隠し通路から倉庫に行って油を手に入れた。世恋さんは隠し通路の中の隠し部屋に向かうと、そこにあったマ石や金貨の入った袋、剣に冬用の装備を手に入れた。さらに地図を書いて、朝霞ちゃんと寧乃ちゃんに、実苑さん達を救出するように指示を出した。


 後は手分けして、油をまいて火をつけて回っただけだ。隠し通路のおかげで、それはもうとっても簡単だった。最後は世恋さんと二人で「燃えろよ~~燃えろよ~~~」と歌を歌えたぐらいだった。


「世恋さん、隠し通路ってあんなにあちらこちらに行けるようになっているんですね」


 私は前をいく世恋さんに小声で聞いた。


「ええ、貴族の家なら多かれ少なかれあると思います。使い道は襲われた時の脱出用だったり、主人が侍従の部屋に忍ぶのに使ったり、その逆だったりでしょうか?」


 最初のは分かりますが、後の目的はちょっと大人な目的ですよね。


「でも、本当に全部に火をつけてしまってよかったんですか? 思い出の品とかだって……」


「何もないですよ。燃えて本当にすっきりしました。それに風華さん、私にとっての一番のいい思い出と言うのは、皆さんに会えたことです。それにこれからもっといい思い出をたくさん作れると思います」


「はい。そうですね。その通りです!」


「だから、あのような塵は全部燃えてしまっていいんです」


「それに風華さん、無駄口を聞いていると置いて行かれますよ」


「はい、世恋さん、了解です」


* * *


「あれ、若芭さんじゃないですか?」


 寧乃があたりをきょろきょろと見回す。まわりは石の壁で囲まれて、大きな硝子がはめられた窓があり、そこには重厚な布が垂れ下がっている。


「えええええ!何で今、切り替えるんですか?」


「その方が都合がいいからです」


 卓をはさんで、寧乃の向かいに座っていた若芭が答えた。


「私にとっては全く都合が良くないです。やっと実苑隊長と一緒になれたんですよ。もうどれだけ離されていたと思うんですか? 私は実苑隊長が大好き。凪は若芭さんが大好き。それで何も問題無しじゃないですか?」


 寧乃の苦情に対して若芭が首を横に振って見せた。


「今は凪が向こうに居た方が都合がいいからです。逃げるのにもいいですし、あの元王子様が内緒の話をするのにも都合がいいからです。私の方ではしばらくは凪が必要になりそうな案件はないですしね」


「若芭さん、こちらの気持ちというものも少しは考えてください。横暴です。とっても横暴ですよ」


「世の権力者と言うものは、皆すべからく横暴なのです」


「もう溜息しか出ません」


 寧乃が若芭に向かって肩をすくめて見せた。


「それに寧乃。凪が向こうに居た方が都合がいい以上に、私は貴方にここに居て欲しいのです」


「どういうことですか?」


「ある人が私のことを邪魔だと思うかもしれません。いや、確実に邪魔だと思っているでしょうね」


「どこの誰です?」


「あの赤毛さんを殺そうとした男です。貴方には私を守ってもらいます。私にはもう少しだけやらねばならないことがあるのです」


 寧乃はじろりと若芭を見ると、目の前にあった砂箱に羽筆を走らせた。


『くそばばあ!』

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