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年の瀬

「実季さんも聞いた?」


 探索路を歩きながら、私は実季さんに声をかけた。


「何がですか、お姉さま?」


 実季さんが怪訝そうな顔をしてこちらに聞いてくる。


「多門さんが城砦を辞めて、どこかに行っちゃうって話」


「歌月さんからの先触れの件ですね」


 実季さんも私に頷いてみせる。本当に先触れを見た時はびっくりした。あの多門さんがここを離れるなんて、想像も出来ない。あの人って、どう考えてもこの冒険者しかいない城砦でないと生きていけないような気がする。


 そもそも普通の街で暮らしていたら、単なる嫌なおじさんとか嫌な客にしかならないのではないだろうか?


「さみしいな。やっとみんなとも仲良くなれたというのに」


 思わず口から言葉がもれる。その通りだ。せっかく仲直りの乾杯をしたばかりだというのに、とても残念でならない。


「きっと美亜さんも一緒だよね」


「そうだと思います」


「その方がいいよね。美亜さんの怪我が十分に治るまで、もっと生活に向いたところで、普通の生活をした方がいいよ。だいたいここは物価が高すぎだし。でも素敵だよね。二人で手を取り合って新しい生活をするなんて」


 うわ、これって肉屋の娘の恋愛小説の世界そのままじゃないですか!思わずよだれがでてきそうな話です。


「ねえねえ、実季さん。それって憧れない?」


「私はお姉さまが行くところなら、どこへでもお供します」


 実季さんがまじめな顔をして答える。あのですね、これは恋ばなですからね。ノリノリで乗ってきてもらわないと困ります。実季さんとは恋話は無理ですかね?


 世恋さんとやったら盛り上がれるだろうか? 絶対に盛り上がれる気がする。でも飛び火して、こっちがひどい目に会いそうな気もする。


「お誕生日会じゃないから、見送りにはいけないよね」


「お姉さま、誕生日会でも休めるかは……」


 そうなの? それは知りませんでした。できれば見送りに行きたいので、どうすればお休みを申請できるのか、聞いておかないといけない。


「それより実季さん。あの二人って、やっぱり結婚するのかな。あの多門さんが、あの超美人の美亜さんと結婚できるんだよ。普通に考えたら絶対にありえないよね。でも桃子さんの件もあるしな……」


「なんだ、うるさい男とつんつん女が(つがい)になるのか?」


 百夜が私達の会話に口を挟んでくる。「番」って何ですか? 鳥とかじゃないんです!


「あんたが言うと、なんかこう夢とか憧れとか全部ぶち壊しなんですけど!」


「赤娘、番いは番いだろうが!」


 あのね、どうしてあんたは私の幸せな気分をぶち壊してくれるの。黒娘、今度あんたの目の前で、私があんたの餌を食ってやる。少しは今の私の気分が味わえるぞ。


「お姉さま、百夜様。それより年の瀬の出し物を考えないと……」


 実季さん、最近は私と百夜がやりあっていると、話題を急に変えるのが多くないですか? もしかして気を使っています? でも実季さんの言う通りです。


「そうです。大事な事を忘れていました」


 もう日にちがほとんどありません。


「歌とか踊りとかでごまかせないかな? 実季さん、なんか適当な踊りとか知らない?」


「私は踊りとかはちょっと……」


 実季さんが思いっきり首を横にふる。組手とか剣はあんなに出来るのに……。あれ、何でしょう。実季さんが急に険しい顔になっています?


「お姉さま!」


 いきなり踊りを考えろというのは、流石に無茶振りでしたか? だが百夜も怪訝そうな顔をしている。


「なんかいるな?」


「誰か隠れているとか?」


「赤娘、お前は本当に馬鹿だな。マ者の気配だ」


 分かった。これは私が悪かった。


「私達のマナ除けはまだ持っているよね」


『いるか?』と言われようがなにしようが、手抜きは絶対にいけません。冒険者たるもの、いつでもどこでもマナ除けです。


「こっちは?」


「まだ気づかれてはいない。だがつまらない奴が前にいるぞ。多分これは食われるな」


 おまえは何を悠長な事を言っているんだ。私達の前にいるのは香子さん達の組だ!


『支援』、『弓』


 実季さんに手信号を送りながら走り始める。向こうは二人だ。こちらが追いついても定員超えにはならない。


『了解』


『囮』、『方向』、『距離』


 百夜に指示を求める。


「右手に行け。200杖(200m)だ」


『了解』


 探索路を外れて右側を走る。この辺りには下生えはほとんどない。ただ黒い落ち葉が足元で乾いた音を立てるだけだ。研修が終わっても毎朝走らされている効果が少しは出ているのか、さほど息も上がらない。


 左手に何やら動くものが見えた。誰かの放った風がその辺りの落ち葉を吹き飛ばすが、その影は軽やかに跳躍するとそれを避ける。百夜が言った通りだ。私の目から見てもこれは駄目そうに見える。連携がとれていない。


 クークククク!


 またこいつ(鳥もどき)か。


 ビュン!


 弩弓が放たれる音が響いた。実季さんの牽制だ。鳥もどきの首筋に弩が突き刺さる。これで倒せるほど鳥もどきは甘くない。


 クァ!


 しかしながら、前で地面に腰を下ろしてしまった人へ向かおうとした動きをうまく止めてくれた。奴がきょろきょろと周りを見回している。止まれば私の投擲でも、お前のでかい目ぐらいは狙えるぞ!


 ク、クァアアア!!


 私の放った投擲が渡りの左目に突き刺さった。再び奴が自分を攻撃した相手を探す。


「こっちだ!鳥もどき!」


 私の声に反応して、片側の目から体液を流した鳥もどきが怒り狂って私に向かってくる。そうだ。お前の餌はそっちじゃない。私だ。


 百夜、後は頼んだよ。


 グァアアアア!


 鳥もどきの体が私の手前、10杖程度の場所で地面に転がった。


『警戒』、『周囲』


「居ないぞ」


 左手から百夜と、弩弓をもって警戒する実季さんが現れた。百夜、あんたも冒険者らしく、少しは手信号ぐらい使いなさい。


「実季さん、けが人がいないか確認して。百夜は他に入り込んでいないかの警戒をお願い」


「はい、お姉さま」


 私も実季さんの後を追って地面に倒れている二人に駆け寄った。


「皆さん、怪我は無いようです」


 実季さんが私に答える。それは良かった。


香子(かこ)さん、大丈夫ですか?」


 香子さんが驚いた顔をしてこちらを見ている。そうですよね。いきなり鳥もどきがきたらびっくりですよね。続けて何か労りの言葉を続けようとした私の前に、黒い何かが割り込んできた。


「おい、お前達。我の餌を運ぶのを手伝え」


 そう言うと、百夜は地面に転がっている鳥もどきを指さした。百夜、あんたね。


「百夜、違うでしょう。『お願いします』です」


 人にものを頼むときの基本が出来ていません。ほら皆さんもあんたの事を呆れて見ていますよ。ちょっとまって、これって……。


 倒れている鳥もどきのなさけない羽をみた私の脳裏に、電光のように何かがひらめいた。


「百夜、実季さん、ひらめきました」


「ひらめきですか?」


 実季さんと百夜が二人で顔を見合わせている。


「年の瀬の出し物が思いつきました」


 二人が驚いた顔をしてこちらを見た。ふふふ、私の考えを聞いたらもっと驚きますよ。


「こいつらのカッコをして『鳥踊り』です」


「おお、それはおもかろいぞ!」


 百夜が手をはたいて同意する。実季さん、その表情はなんですか? 大丈夫です。間違いありません。


 絶対にうけると思います!

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