再開
「桃子さん、色々ご迷惑をおかけしてすいませんでした。またよろしくお願い致します」
とりあえず、下げられるだけ頭を下げる。私達の前には腕と足を組んで椅子に座っている桃子さんが居た。私達を見る視線はやっぱり冷たいような気がする。そう言えば、念史さんやあの二人はどうなったんだろう? 来る前に誰かに確かめておくべきだった。
「いろいろね」
あっ、やっぱり声も冷たい。
「いくつか聞きたいことがあるのだけど?」
「はい、桃子さん」
ともかく背筋を伸ばして、『はい』あるのみです。
「あなたが事務方の柚安君を篭絡したという噂があるけどそれ本当?」
「えっ、ろうらくですか?」
何処のどいつだ? そんな事を言っているのは。まるで私が色仕掛けで柚安さんを何とかしたみたいじゃないですか!
「私は聞いているのよ?」
「はい、桃子さん。いいえ、私は……あの……」
こういう時は『はい』なのか、『いいえ』なのか、もう訳が分かりません!
「自由に話なさい」
「はい。歌月さんにお願いして先触れを送ってもらって、私はお使いに行っただけでして……」
「まあ、そうよね。あの柚安君ですものね。あなたが秋波を送ったぐらいでなんとかなる人じゃない。これも柚安君だから冗談の類にできる話ね。それでも本人の耳に入ったら、口にした奴らがどんな目にあうかは知らないけど」
そうはっきり言われてしまうと、身も蓋もないのですが……。それより、柚安さんってそんなに怖い人なんですか? それはちょっとまずいような気がします。
「あなた達の所属については特に変更はありません。ですが、貴方達を監獄の中に置いておくのはこちらが危険すぎます。分かりますよね?」
桃子さんがこちらをじっと見る。やはり「はい」あるのみです。
「はい、桃子さん」
黒娘、あくびなんかしてんじゃない。あんたもちゃんと答えなさい。えっ、でも百夜はともかく、私も危険なんですか? あのですね、私は襲われたのであって、襲った訳ではないのですが……
「なので、貴方達には監視所での巡回を中心とした勤務についてもらいます」
「はい、桃子さん」
「いいですか、新種騒ぎが続いていて、主任は心身ともだいぶ参っています。貴方達が彼にこれ以上の負担を掛けないことを切に願います。分かりましたか?」
「はい、桃子さん」
今度は絶対にやらかしません。
* * *
「白蓮、少しは疲れは取れたか?」
用哲さんが机に突っ伏していた僕に声を掛けて来た。その言葉には哀れみすら感じられる。
「とっくに取れてると思いますよ。用哲さん知ってますか? こいつ、千夏に肩揉みなんかしてもらってたんですよ。どんだけお偉い師匠様ですかね?」
創晴さんがさも嫌味っぽく用哲さんに答えた。最近の創晴さんは僕に対して嫌味ばっかりですね。まあ、原因というか悪いのは多分こっちなので、しょうがないですけど……。白蓮は心の中で盛大にため息をついた。
「創晴さん、これでも必死に断ったんですよ。最後は泣かれたらどうすりゃいいんですか?」
女の子の泣き落としという奴は本当に強力すぎて、対処不能なんですよ。ふーちゃんにはない手ですしね。使われたら……ぞっとします。まだ短刀もって首を落としに来る方がましなのかもしれません。
「まあまあ、そんなところでもめても仕方がないだろう」
ありがとうございます。ここでの僕の味方は用哲さんだけです!
「用哲さんはかわいい奥さんとお子さんがいるからいいですけどね。見せつけられるこっちの身にもなってください」
創晴さんがさらに嫌味っぽく用哲さんに答える。すいません、明らかにとばっちりですよね。でも創晴さんに身を固めろとか言わないで下さいね。絶対に暴れます。
「じゃ、ふたりでどこかの個室にでも押し込めるか?」
ちょ、ちょっとまってください。本気で言ってないですよね!
「勘弁してください。何やっているか気になって、何も手がつかなくなりますよ」
「なら我慢しろ」
良かったです。ここで同意されたらどうしようかと思いました。もうなんだかな。
「それより、創晴お前にも手伝ってもらう」
「何ですか? 着替取ってこいとか、お使いはもう十分やりましたよ。他の奴に振ってください」
その点については色々とご迷惑をお掛けしております。申し訳ありません。
「確かに最近はお使いばっかり頼んで悪かったな。他をあたるとするか。千夏を鍛える手伝いをお願いしようと思ったのだけど……」
椅子に背を預けてだらしなく座っていた創晴さんがいきなり立ち上がった。いや、立ち上がっただけじゃない。背筋もピンと伸びている。
「了解です、用哲さん。今すぐからでもいいですよ」
もう本当に何だかな!




