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「用哲副組頭、白蓮師匠はいつお戻りになるかご存じでしょうか?」


 執務机で書類を眺めていた用哲は、背後からかけられた声に振り返った。そこには可愛らしい顔をした、自分の娘とそう年が変わらない少女が立っている。


「千夏さんか。白蓮は食事会だから少し遅くなるかもしれないな。なんでも急に誕生日が決まったとか先触れには書いてあったが、きっと誕生日会の間違いだろうな」


「そうですか」


 千夏が少し残念そうな、そして困った様な顔をする。『白蓮も一緒につれていってやればいいものを薄情な男だな』その少し寂しげな顔を見た用哲はそう思った。そして何を困っているのかに気がついた。


「そうか、研修所への戻りか。忘れていてすまなかった。誰かに送らせよう」


 白蓮がいつ戻るか分からないとなると、誰かにおくらせないといけない。創晴あたりに頼むか? いや、きっと白蓮に対する嫉妬心が燃え上がるだけだから、やめておいた方が良さそうだ。


「ここで師匠をお待ちします。お戻りにならなかったら、一人で研修所にもどります」


「遠慮しないで欲しい。君がここを出るときは必ず誰かに送らせる。これは君の為だけじゃない。いいね」


 用哲は千夏に念押しした。何かあったら無限さんにどつかれるどころじゃない。ここは言う事を聞いてもらう必要がある。


「はい、副組頭」


 千夏は用哲に向かって素直に頷いて見せた。


「それと千夏さん。ここではすべて『さん』付だ。こいつは上の方針で徹底している。たとえ他の組がいようがここの中はすべて『さん』だ。いいね」


「はい、用哲さん」


「まちがっても無限さんに、『無限組頭』なんて呼ぶなよ。どやされるぞ。まあ、君ならどやしはしないか。でもわざわざ気を悪くさせる必要はないからね」


 以前、無限組頭としか呼ばない頭の固い奴がいてね、そういうのは探索には向かないのだけど、それは今はどうでもいい話か……


「はい、用哲さん。白蓮師匠はどちらのお食事会にいかれたのでしょうか? もし差し支えなければ教えていただきたいのですが」


 しばしどうでもいい事を考えていた用哲は、千夏の言葉に顔を上げた。隠す話でもないな。


『白蓮、せめてちゃんと説明してから出かけろ』


 用哲は白蓮に対して心の中でため息をついた。


「白蓮もまだ君に色々と説明している時間が無かったみたいだな。彼はここでは預かりで、もともとは別の組の人間だよ。今日はその組の誰かの誕生日だったらしい」


「そうなんですか? お店では仁英さんが、探索組の期待の若手とおっしゃってましたけど」


「仁英がそう呼びたくなる気分は分からなくはないな。俺としても奴にはここに居てほしいと思っている。何せ白蓮には運という奴がある」


「運ですか?」


 千夏が用哲に向かって不思議そうな顔をした。


「そうだ。ここは探索組だ。最初の探りを入れるとこだから何が出るかは分からない。この運とか勘とかいうのはここではとっても大事な才能なんだよ」


 無限さんがすぐれているのは、技術だけじゃない。


「そうですね」


『それが本当に分かったら、ここで十分に飯が食えるよ』


 用哲は千夏に心の中で告げた。ここでは目に入って来ないものこそが、一番大事なものだったりする。


「白蓮は特に何かの技術にすぐれているわけじゃない。ここに居るやつらからみたらまだまだ駆け出しだ。だけど奴は何か持っているものがある」


「はい。そうだと思います。仰る通りです」


 千夏が用哲に相槌を打った。


「それに意外と要領がいいしな。まだ伸びしろは十分にある。まあ期待の若手って奴だな。生き残れればいい斥候になれるよ。無限さんが奴を引き取る気になったのも、自分の後釜になれると思っているんじゃないかな」


「白蓮師匠は素晴らしい冒険者です。理由は女の()ですけど」


 おやおや、この子は本気で言っているね。用哲は思わず自分が苦笑いをしてしまうのを止められなかった。


「ははは、ちなみに俺が言った話は白蓮にはしないでおくれ。奴が天狗になったら困るからな。君みたいなかわいい子を前にしたせいで思わず口が滑った。君はなかなか男を見る目があるよ。家のかみさんと同じだ」


 この娘はかみさんに会った時を思い出させる。あの時は本当にかわいくて、文句なんか一言も言わなかったんだけどな……。用哲はあった頃の自分の妻の姿を脳裏に描いた。


「はい用哲さん。もちろんです。では、下の階で白蓮師匠の帰りをお待ちします」


「ああ、食事や飲み物が欲しくなったら、遠慮なく言ってくれ。君は弟弟子の弟子だからね」


 創晴が白蓮の首を絞めたくなるのが分かるな。千夏さん、お願いだからあまり見せつけないでくれよ。ここは上から下まで、そういうのに免疫がない奴が多すぎるんだ。


 用哲は小さくため息をつくと、目の前の書類へと視線を戻した。


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