魅了
「荷物はこれだけですか?」
「はい、白蓮さん」
僕が何をやっているかと言うと、美明さんの店に行って、千夏さんの荷物の受け取り及び運搬作業だ。正直なところ、これは冒険者としての仕事の内に入るのかかなり疑問だが、組頭に副組頭二名に命じられれば僕に否はない。
彼女の荷物はほんの僅かだ。服も普通の服がない。さすがに研修所内を夜会服で歩く訳にはいかないから、何か調達しないとだめだな。しばらくは旋風卿の家には戻れそうにない。それにほとぼりが冷めるまではその方がいい。
無限さんの説明によれば、今起きている新種騒ぎという奴は色々とやっかいで、単に森に潜るのがやっかいなだけでなく、古参と大店、あるいは各組の間の主導権争いにも色々と影を落としているそうだ。なので新種の情報を握っているという事は、その中で十分に有利な立場を得られるらしい。
無限さんの言う通り、知識は確かに力だ。無限さんと森に潜ってそれがよく分かった。
それはそうと、なんですかここは? 皆さん散らかしすぎですよ。肌着やら下着やらがその辺に投げっぱなしです。それに化粧を落とすと皆さん……。でも考えようによっては、化粧をしていない方が普通でいいような気がしますけどね。
「千夏が白蓮さんの弟子ね。あんたは本当にやっちまったんだね」
他の人達はさておき、美明さんは日の光の下でも十分にきれいだ。
「美明姉さん、これまでお世話になりました」
千夏さんが美明さんに丁寧に頭を下げる。やってることは全部無茶苦茶だが、この辺りはちゃんとしている子らしい。
「急にこんな事になるとはね。でもこれで私の肩の荷も少しはおりたよ」
美明さんが、千夏さんをそっと抱きしめる。
「白蓮さん、分かっているとは思うけど?」
美明さん、目が怖いです。責任とれとか言ってないですよね? 弟子ですよ。弟子。
「きちんと面倒はみさせてもらいます。それにこの件は……」
「姉さん、心配しないでください。大丈夫です」
あの、千夏さん。どうしてあなたが答えるんですか? それも確信をもって。
「あんたの希望だし、決まった事だからね。しっかりやるんだよ」
「はい。美明姉さん」
『あなたが良き狩手でありますように。そして森があなたを無事に返してくれますように』
美明さんが、そこから先の言葉は手信号で返してくれた。僕らも彼女に手信号で返す。
ああ、この人も冒険者だ。
森は潜った者の心を掴み続ける。ふーちゃんの笑顔のように。




