責任者
「あんたが、あの子の責任者って訳かい」
歌月さんが目の前に立つ男に声をかけた。関門のところから城砦まで、馬車で一緒だった人だ。名前は確か『多門』だっただろうか?
「そういえば、あんたにはいつぞやずいぶん世話になったね。あの背の高い娘は今日は居ないのかい?」
そう言えば、あの時はふーちゃんと同じ赤毛の女性も一緒だった。最近どっかで見たような気がするけど、気のせいだろうな。
「どうして部外者がここに居るんだ、桃子?」
男が背後に立つ女性に声をかけた。警備方の副組頭だ。男の問いかけに、女性は無言で両手を上げて見せた。
「部外者じゃない。同じ組のものだ」
「それをここでは部外者と言うんだ。それに監獄は警備方が仕切っているところだ」
歌月さんは男の言葉に動じる様子はない。
「叔父に頼んでね、私もあんたが嫌いらしいあの男と同じ特別査察官って奴にしてもらった。どこにでも口を挟めるという奴だよ」
歌月さんが男の前で、金の薄片の様な物ををふりふりさせて見せると、男の顔色が変わった。
「どんだけ七光りさせてんだ!」
「七光りだろうが何だろうが、私にはどうでもいい話だよ。私にとっては、あの子は自分の命の次ぐらいには大事なんだ」
「公私混同どころじゃないぞ」
「邪魔をする気なら叔父から一筆取って、私が仕切る。白蓮、先触れを呼びな」
歌月さん、ちょっと怖いですよ。もう少し穏便に行きませんか? 言い合いなんかより、ふーちゃんの無事の確認が先です。それ以外はどうでもいい話です。
「分かった、降参だ。あんたの見かけはさておき、中身は間違いなく月貞結社長の血筋だな」
男が歌月さんに手を挙げて見せた。
「だが歌月特別監査官。俺があの子の責任者だ。あの子に罪があるのならあんた達じゃない、俺が一緒に被る。それが分かるなら、俺に先に話をさせてくれ。その後はあんた達に任せる」
男は背後の女性をふり返った。
「それでいいな桃子」
背後の少し小柄な女性が男に頷いた。
「あの子に関してあなた達の邪魔はしない。だけど警備方の面々については私に任せてもらう。そちらは私の責任よ」
「こちらとしても、あの子以外はどうでもいい話だ。だけど、もしあの子に何かあった場合は、あんたら全員を黒犬の餌にしてもあきたらないよ。覚悟しな」
その時は僕も手伝わせてもらいます。いや僕にやらせてもらいます。
「あの子は無事よ。少なくとも体はね」
良かった。何があったにせよ、無事ではあるらしい。百夜ちゃんは、実季さんは無事なんだろうか?
「今は?」
「あの子を救った囚人と話をしている。その男の最後の願いって奴よ。その男はこの件で明日吊るす」
「男の名前は?」
「碧真」
「覚えておく」
歌月さんはそう一言告げると、壁際の長椅子に腰をおろして目を閉じた。
* * *
「話は出来た?」
部屋を出ると戸口の横に壁を背に桃子さんが立っていた。
「はい」
「では、行きましょうか。貴方の責任者が待っている」
「責任者ですか?」
「多門特別監督官よ」




