焦り
「青鷺の村の先に奴らがいる?」
知覧は偵察からの報告に耳を疑った。こちらも急いできたが、やつらの動きはこちらの想像以上に速い。やつらは内地の兵だけを先行させたのだろうか?
一の街の住人はどうした。一の街の住人達をどんなにせかしてもまだその半分も来ていないはずだ。こちらは一の街の前に広がる耕地の平野まで押し出して、そこで内地の兵を倒し、一の街のやつらを先頭に復興領城塞に余裕で押し出せたはずだ。こちらですら少なくない兵が脱落している。戦意のない一の街の住人などすでに半数以上が脱落しているのではないだろうか?
偵察の話では、やつらの兵力は2000以上、こちらよりも多くの兵で押し出してきている。いったいどんな手を使った? 引き返すか? 最初の目論見はついえたが、当初の計画通り四子爵軍が集まってから戦を仕掛ければよい。
そこまで考えて知覧は、この敵の動きは自分たちの常識の外側にあるものではないかと思い始めた。やつらは最初から戦をするつもりでも、住人を難民として押し付けるつもりでもなく、森に追い込んでこの地をまたマ者で溢れ返すための贄とするつもりだったら? 我々を征服するのではなく根絶やしにするつもりだったら? 知覧の背中を冷たいものが流れた。
だがやつらだって全滅だ。しかし内地のやつらは本物の『森』を知らない。一の街の住人だけを犠牲にして自分達は生き延びられると信じ込まされているかもしれない。いや信じ込ませれば一回だけは使える手だ。そうかそれであの狂人は命を狙った息子の父親を兵士長に据えたのか。我々と奴の両方を一度で始末するために。
だがあの男ならやる。一の街の女子供すべてを人質にとったやつだ。そしてその一回で狙われるのは自分の領地「塊の街」。戻ることはできない。兵に脱落者が出ようが、青鷺村の先を抜けてやつらが森に到着する前にやつらの頭を押さえなければならない。何としてもだ!




