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正体不明

『危険』『マ者』『前』『50』


 無限さんの目の前に手信号を出した。繋ぎ役の創晴さんにも送る。それを行っている間にも前の奴は動き出していた。その動きは目の錯覚もあって、ゆったりとしている様に見えるが、実際に向って来る速度は決して遅くはない。


「白蓮、お前には何か見えているのか?」


「はい、はっきりと。50杖、いや40杖、奴はこっちに気が付きました」


「やばいのは分かる。だが俺にはそれが何処に居るのか、何者なのか分からない」


「打ちます。どちらで行きますか?」


 閃光弾、音響弾、どっちだ。笛を口に含み指示を待った。


「両方だ。打ったら全力で逃げるぞ」


 その指示に合わせて笛を吹く。長く、短く二回。そして閃光弾と音響弾の線を抜いて奴に向かって投げた。耳に引っ掛けてある耳栓を着けて後ろに走る。無限さんも低い姿勢を保ったまま、僕の前を全力で走っていった。


 1,2,3


 一瞬だけ目を閉じる。瞼の向こうが血の色に見え、耳栓をしていても轟音が耳を叩く。周りに他の組がいたら危なくて使えないやつだ。目をつむったままでも足を動かして逃げたいところだが、この岩場ではむしろ危険だろう。


 光が去ったのを確認し、目を開けて無限さんの姿を探す。無限さんは前方の比較的大きな岩の影へと既に飛び込んでいた。自分もそこを目指して走る。長革靴に滑り止めの草を履いていても足が滑りそうになった。


「奴はどうしている?」


 岩陰に飛び込んだ僕に無限さんが聞いて来た。緊張のせいか無限さんの息も少し荒い。岩陰から向こうを覗いて見た。なんだこいつは? 実物は見たことがないが話に聞く火蜥蜴か?


 いや違う。表面の色が周りに合わせて変わっているが、火蜥蜴のような厚い甲羅のようなものはない。むしろつるっとした表面は、蜥蜴のお化けのように見える。


 そいつには閃光弾も音響弾も全く効かなかったらしく、確実にこちらに向かって動いていた。こちらの動きが完全にばれていると言う事だ。こいつは一体何でこちらの動きを追っているんだ。


「こちらに向かっています。閃光弾も音響弾も効果なしです」


『確認』『前方』


 無限さんが、後ろの仁英さんに直接手信号を送った。


 奴の顔らしきものが見えた。ああ、こいつはやっぱり蜥蜴のお化けみたいなやつだ。その口らしきとこから長く赤い舌が伸びている。


「くそ、やっぱり仁英からも見えていない」


 前の奴が、斜め後ろの仁英さん達が居る方向に顔を向けて、長い舌を伸ばした。


「奴がこっち、いや、仁英さんの方に向かっています」


 無限さんが頭を出して、奴を確認しようとする。なんだ、あの赤いのは? 黒い岩の色を映しているやつの顔とおぼしき辺りに、赤いものが光っている。奴の目か? 仁英さんの方に動きながら、その目はこちらの動きも探っているように見えた。


「居るのは分かるが、やはり俺には見えない。仁英の方に向かっていると言ったな? マナか?」


『使うな』『力』


 無限さんが手信号を仁英さん達に送った。奴の動きが一瞬止まる。そして今度はこちらに向かってきた。


「白蓮、俺はお前と違って()()()だ。おれの力はちょっと変わり種の隠密に過ぎない。やつらからだけ見えなくするのを長時間維持できるだけだ」


 隠密使いはその気配を隠す。もちろんそれはマ者からだけじゃない。人からも気配を隠す。だが普通はそれを長時間維持は出来ない。無限さんはマ者からだけ姿を長時間に渡って隠せるのか。


「音も閃光も効かない。どうやら、奴は力に反応しているらしい。俺も奴からは丸見えだ。それに動きにも反応している様だ」


 つまり奴には手信号さえ危険だと言う事か。無限さんの言葉に目配せで頷いた。


「白蓮、良く聞け。お前は奴が見えるし、奴からも見えていない。だからお前は逃げろ。俺たちは可能な限りお前を支援する。情報を持って城砦に戻る。それが俺達探索組の仕事だ」


 無限さんが僕の目をじっと見た。


「無限さん、悪いですが聞きません。動きで追われるのであれば、僕の技術ではどうせ遠くまでは逃げられません」


 それに見えていない皆さんじゃ、支援は無理ですよね?


「いちかばちかです。仁英さんにあの三角形の岩から、平たい岩が両側にあるところの対角線上で、全力で力を使ってもらうようにお願いしてください」


 僕は無限さんの返答を待たずに岩の陰から体を動かした。


「白蓮、てめえ!」


 生き残ったら思いっきり殴られるだろうな。でもやつが本当に蜥蜴もどきならいけるかもしれない。ふーちゃん、僕が君に再び会えるように、僕と一緒に祈って欲しい。


 僕には君の悪運の強さが必要だ。

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