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限界線

「ここが限界線だ。ここから先は探索路も情報もない」


 無限さんは上が焼け落ちてしまった杉の大木の根元に立つと、そう僕に告げた。


「先行組が運んでくる物資のせいもあるが、何よりこれから先は城砦が全く見えなくなる。それにしばらくは目印にできそうな背が高い木もない。つまり面倒なところになるという訳だ」


「無限さんは、こっそりでは何回か行ったことがあるんでしょう?」


 仁英さんが弩弓を片手に警戒しながら無限さんに聞いた。


「ああ、非公式って奴でな。それも何年か前の話で、もっと北だ。結果として、ここから先は費用がかかりすぎるという事でそれでお終いになった」


「最近は冒険者をやっているんだか、どこかの大店の店員をやっているんだか、分からないですからね」


 仁英さんがぼそりとつぶやいた。


「だが仁英、上りは大事だぞ。家の嫁なんか上の子を内地の学校に行かせたがっていてな。いかせたら最後、どれだけ金がかかることか想像も付かない。駆け出しの頃の上納の恐怖再びだ」


 用哲さんが喉元に手をやってぼやいて見せた。


「冒険者になりたいとか言うよりは、はるかにましだろう」


「それはその通りだ」


 仁英さんのつっこみに用哲さんが頷いて見せる。


「え、駄目ですかね? 俺は親父に憧れて冒険者になった口ですけど」


 創晴さんはそう告げると、訝しげる様な表情で二人を見た。


「ほらみろ、こんな奴になっちまう」


 仁英さんが再び突っ込みを入れる。これには無限さんも含めてみなが含み笑いをした。いい組だな。追憶の森に居た時に自分が想像していた、入りたいと思っていた『組』そのものだ。


「白蓮、お前は?」


 創晴さんがこっちを見る。


「自分は天涯孤独でして、居候先の人が八百屋兼、冒険者だったのでその影響ですね」


 じゃなかったら、ふーちゃんを手伝って八百屋をやっていたのだろうか? あの動乱を考えれば、戦場に行ってそのまま死んでいたってところだろうな。今、生きているだけでも奇跡みたいなものだ。


「まあ皆それぞれだな」


 無限さんが無駄話はそこまでだとでも言うように僕達を見回した。


「ここから先はマナ除けも、マナも、大事にするのはなしだ。精いっぱい気張っていく。仁英、さぐれるだけ探れ」


「何回かやってみましたが、何もいません」


 仁英さんの表情には戸惑いの色がある。


「俺みたいないい男が出張って来たから隠れちまったか? 恥ずかしがり屋のお嬢さんばかりだな。じゃ、()()()という奴に出向くとするか。なんかちょっとはやる気になってきたぞ」


「無限さんは、相変わらずですね」


 創晴さんが、そう言うと無限さんのつなぎの位置へと入る。全員の表情は真剣そのものだ。


 ここからは何が待っているかは誰にも分からない。


* * *


『確認』『先方』


 僕の前に居る、無限さんが手信号を出した。後ろを確認すると、つなぎの創晴さんがそれを後ろにつないでいる。すでに限界線を越えて2刻を優に超えていた。慎重に進んでいるとはいえ、2里(8km)以上は限界線から進んでいる。だがいまだにマ者らしいマ者に接触できずにいた。


『無し』『200』『確実』


 創晴さんから仁英さんが探った結果が戻って来た。仁英さんはだいたい300杖(300m)ほどは探れるらしい。だが僕らと仁英さんとの間に100杖(100m)ほど距離があるので、前方200杖(200m)ほどは確実に何もいないと返してきている。


 僕らの茂みの前、50杖ほど先に小川が流れているらしく、せせらぎの音が聞こえて来た。見ると冬のせいか、見かけには水量はそれほど豊富なようには見えないが、僕らのところまで水音が聞こえてくるのだから、それなりに流れはありそうだった。


 そのせいか、足元や周りには大小の岩があり、落ち葉に覆われた表面は滑りやすく、足場としては悪い。隙間に落ちたりしたら足をやりそうだ。その代わりに泥の中に足を突っ込まずに移動することは出来そうだった。


 辺りには水量が豊富にあるときに倒されたのだろうか、幹が折れて倒木になっているものがある。そのどれかを使えば、濡れずに向こう側へはいけそうだ。いくら油紙で包んでいるとはいえ、間違って足など濡らすと凍傷になりかねない。無限さんはこれを超えて進むつもりらしい。


「この乾燥している時期に水場に何も居ないとはな?」


 僕の前方で茂みから向こうを覗いている無限さんがぼそりとつぶやいた。


「白蓮、縄張りの広さがどのくらいか覚えているか?」


「針熊の雄で一里を超えるぐらい、牛蛙の雄で半里ぐらいでしたっけ?」


「そうだ、何も居ない、つまり恐れて逃げ出すべき何かが居るとすれば、そいつの縄張りは3里を優にこえるということになるな。ちなみに火蜥蜴でおよそ3里だ。そいつより大物だという事だよ」


 そう僕に告げた無限さんの目は真剣だ。つまりこの辺りには火蜥蜴以上にやばい奴が居ると言う事だ。


「ところどころに顎の大物がいたらしい跡があったが、どれも空だ。動けるやつは逃げて、動けないやつはじっとしていたが、そいつに全て狩られたという事だ。糞や食べ残しの後はないから、どこかにそいつの巣がある。牛蛙みたいなやつだな。そいつが餌を引きずったらしい跡を追ってみたがこの辺りで消えている」


 そう言うと無限さんが首を傾げてみせた。茂みの中から無限さんの視線の先を追ってみる。大きな横にながい岩らしきものが見えて、小川はその影になって見えない。まて、あれは本当に岩か?


 目の錯覚だろうか、岩が少しづつ右にずれていくように見える。手前の木に視点の基準を合わせてもう一度確認する。


 何だこれは?


 何かが動いてるんじゃない。岩の上の模様が動いて全体が動いているような錯覚を起こしたんだ。となりの無限さんを見る。僕に分かったことが無限さんに分からないはずがない。


「一体、どこにいっちまいやがったんだ?」


 無限さんがつぶやく。


 もしかして、無限さんにはこれが見えていないのか?

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― 新着の感想 ―
[良い点]  改行の意見を容れて頂き、ありがとうございます。  御作の持ち味である読みやすい文章が、より読みやすくなったかと思います。  僕自身は、書いている内にどうにも説明臭くなるのが欠点なので、…
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