初出勤
「私のところは、実は色々な仕事をやっていてね。それぞれに副組頭がいるんだけど」
そう言うと、桃子さんは私達の方をふり返った。今は馬車で、彼女の職場というところまで乗せて行ってもらう途中だ。つまりこれが、私達3人の初仕事という事になる。
なので、馬車には桃子さんの他に、私と百夜と実季さんの3人が乗っている。
「私が担当しているのは、どちらかというと厄介な人達かな。あなた達も含めてね」
「なんだこの女は。我に失礼だぞ」
しまった、口を塞ぐのを忘れた。それに最近言葉が上手になっていないか?
今までは意味が分からなかったから、ごまかせたというのに。今度から実季さんにも、どんな時に口を塞ぐべきか、教えておかないといけない。
「副組頭殿、すいません。妹はどうも口が悪くて……」
桃子さんが百夜に向かって、にっこりとほほ笑んだ。ここで降りろとか言われなくてよかった。
「正しくは貴方達のような、すぐにどこかの組に配属するのが難しい人達を受け入れるのが一つ」
つまり私達、多分、私と百夜の二人は規格外という事ですね。かぼちゃなんかだとよくあります。大きくなりすぎると、味が落ちるんですよね。
そんな私の表情に気が付いたのか、桃子さんが私に向かって片目をつぶって見せる。
「でもこれは決して悪い事ばかりじゃないの。型にはまっていないというだけで、意外と二つ名持ちになるような人は、貴方達と同じように、警備方預かりから始まった人は少なくはないわ。穿岩卿なんてその典型例ね」
あのおじさんですか。確かに型にはまるような人には見えないですね。
「それに、私としてはかなり気楽よ。私のところで預かるけど、所属は多門さんのところだから。何かあればあの人の責任。そう言うことよ、追憶の森の冒険者さん方」
つまり、桃子さんにお願いして、ここを首にしてもらうという手は使えないという事ですね。白蓮、覚えていろよ。お前のおかげで私は大迷惑だ。
「そちらは副業という感じで、どちらかと言うと、もう一つの方が本業ね。さあ、そろそろ見えてくるはずよ。気を付けて窓の外から先を見てみて」
素直に窓から半身を乗り出して、前を覗いてみる。
「お姉さま、気をつけて下さいね」
実季さんが、急な揺れで私の体が落ちないように、後ろから体を支えてくれた。でも実季さん、ちょっと密着しすぎなような気がしますけど。
まあ、窓が狭いから仕方ないですね。前には何だろう、お椀をふせたような、石作りの灰色の何かが見える。これって、城砦の上からも見えていた奴だ。多門さんは何て呼んでいたっけ?
「見えた?」
「はい。すごく大きい灰色の、逆さにしたお椀みたいなやつですよね」
「そうよ。皆さん、私の職場『監獄』にようこそ。そして、当面はここがあなた達の職場よ」
* * *
「あら多門君、ご機嫌ね」
「おばさんも分かるかい。やっとあの赤毛の押し付け先が決まった」
「あら、どこでひきとってくれたの。すごく大きな借りにならないといいですけど」
「桃子のとこだ。ある意味、正攻法だよ。あちらこちらからも文句が出しずらいね。まあ、借りがないことはないが、あそこの本業でもあるからな」
「あら、そう簡単かしら?」
「今日、馬車に乗って監獄に行っているはずだ。これで一件落着だよ」
「多門君、浮かれすぎて、書類を見る手が止まっているでしょう。警備方から、あの子の発令の写しが来ていますよ」
「これか? 元追憶の森の冒険者に付き所属は、『監督方』のままとする。なんだこれは!」
「体を引き取ってやっただけでも、ありがたいと思えという事ね」
「そう言う手で来たか。あいつ、鼻からそのつもりだったな。あいつは見かけと違って、今でも中身は鉄の女だ」
「多門君、あなたはいつも女性を舐めすぎです」




