お詫び
「輝一と申します。一応、この組の組長をやらせてもらっています。炎使いで、守手と打手を担当しています」
「大海と申します。十人力で、前衛を担当しています」
「丁司と申します。探知使いで、斥候を担当してます」
「兵太と申します。かかし使いで、守手と勢子を担当しています。
最初の三人は、30を優に超えていそうだが、半ばにはなっていないくらいだろうか? みな狩り手組らしい、がたいがいい男達だ。
最後の平太だけが、二十を少し超えたぐらいで、私と同じぐらいの年だろうか? 少し細身の童顔で、ちょっとあどけなさを残した顔をした男だ。朋治君を思い出す。
「美亜と申します。監督方から、こちらに異動になりました。以前は打手を担当していました」
私の力は良く知っているでしょう?
「夢使いです」
4人が並んだ順に、ぎこちなく私に手を差し伸べてきた。それぞれに手を握り返すが、みんな私の目を直視できずにいる。
それはそうだろう。あの晩、私は全員にそれ相応の報いを与えたのだから。あの人に直接絡んでいたのは最初の3人だが、最後の一人は、それを傍観するという罪を犯した。
「組での呼吸合わせを兼ねて、明日にも手近な領域を割り当てるように、事務方には申請してある。今日中に、打ち合わせと、その準備を済ませておいて欲しい。いいかね?」
「はい、副組頭」
全員で一斉に答える。副組頭は片手をあげてそれにこたえると、机の上の書類をかばんに入れ、衣紋掛けから短外套とつば広の帽子をとった。
「では、さっそく打ち合わせをしたまえ。私は事務方に出かけてくるので、そこの打ち合わせ用の卓を使うといい。分かっているとは思うが、我々には余裕がないのだよ」
彼は私達にそう告げると、さっさと扉の外に去っていった。ここは相変わらずせっかちな所だ。その点では以前、私が居た時と、何も変わってはいない。
早速、卓に向かおうとすると、背後で、何やら床に荷物を置いたような音がした。ふり返ると、4人の男が床に膝をついて、私に向かって頭を下げている。
「落夢卿。この間は貴方に、そちらの室長に大変失礼な事を致しまして、申し訳ありませんでした」
「申し訳ありませんでした」
最初に口上を述べた、組長の輝一に続き、他の3人が声を合わせた。あまり自分が経験したことがない事態に、顔が引きつりそうになる。私の周りにいた人達は、謝れと言っても、絶対に謝ったりはしない人達だった。
「皆さん、お願いですから顔をあげて、立ち上がっていただけませんでしょうか?」
彼らは、お互いにどうしようかと顔を見合わせていたが、立ち上がって私に頭を下げた。
「あの晩は、そちらの室長がおっしゃったことが、正論ではあったのですが、新種騒ぎやらであまりうまくいっておらず、つい八つ当たりをしてしまった次第です。いい歳してみっともない。お恥ずかしい限りです」
彼らに対して、どう対処するか考えているのだが、良く分からない事態に頭が混乱しそうになる。あの人ならどう返すのだろう?
「私もあの晩は少しお酒を頂いていまして、大変失礼いたしました」
「いや、貴方が謝られることは何もありません。正直なところ、最初に話を聞いたときには、どつかれたらどうしようかと思っていましたが、これはまたとない機会だと気が付きました。我々としては、貴方の強さは十分に身に染みて分かっていますので……」
そう言うと、輝一は私の前で頭をかいて見せた。これは演技なのだろうか? それとも本心なのだろうか?
どこにも聞ける相手がいないことが、とても辛い。だが、ここは丸く収める他はない。
「これからは一緒の『組』です。あの晩の事は、お互いに水に流すという事でいかがでしょうか?」
4人はいかにもほっとしたという感じで、お互いの顔を見合わせると、
「もちろんです。これからよろしくお願いします」
と言って、私に頭を下げて来た。
彼らに即されて、打ち合わせ用の卓に座ると、輝一さんが側にあった地図籠から、一枚の地図を取り出して卓の上に広げた。執務机に座って地図を覗き込む4人の顔は真剣だ。
当たり前だ。ここでは稼げないものは残れない。その空いた席は、後から来たものによって占められるだけだ。
「今、大店組が潜っているのは、この南側になります。ですが、今年は渡りがいつもよりかなり南の手前、東側に繁殖地を設けていて、実際に潜れるのは真ん中に近いところかその先です」
輝一組長が、地図上に薄い油紙で張り付けられた、紫の斜線の領域を指した。
「我々が北と南、どちら側をいつ領域とするかは、年間で決まっているので、これだけでもうちの連中は大損です」
「いつもはもっと北側の、湿地の縁のところに繁殖地をもうけるから、どっちにとってもさほど邪魔にはならないんですけどね。今年はともかく色々な事が狂っているんですよ」
一番年かさに見える丁司さんが、あごの無精ひげをなでながらつぶやいた。年はいっているが、その機敏そう振る舞いは、いかにも長年斥候をやって来たという感じだ。
「うちでは狩手は10~15組前後ぐらいが、二交代から三交代で森に入ります。今は冬で稼ぎ時なのですが、領域そのものが狭い上に三交代なので、月に10日も潜れていないんです。嫁からは大目玉ですよ」
丁司さんは妻子持ちなのだろうか? 稼ぎが無いとそれは大変だ。
「落夢卿に来てもらって、優先で入れるだけでも、とてもありがたいんです」
「美亜と呼んでください。二つ名で呼ばれるのは慣れていないんです」
「そういうもんですか?」
「そういうものです」
兵太と名乗った一番若い男が、驚いた顔でこちらを見る。貴方は知らないだろうけど、前にいたところでは「小娘」と呼ばれていたのだ。いきなり二つななんかで呼ばれると、誰のことか分からなくなる。
「では、森に潜るときの我々の手順を説明します。相手にもよりますが、今回の相手の牛蛙の場合は……」
輝一組長が、卓の上に小さな駒や、色のついた油紙を交えて説明を始めた。他の者達がそれを補足する。
私はその説明を受けながら、久しく忘れていた感覚が、再び森に潜るという興奮が湧き上がってくる。私の目的は森じゃない。だけど、この湧き上がってくる何かを抑えるのはとても難しい。
何故なら、私も冒険者なのだから。




