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恋話

「恋話ですか!?」


 世恋さんの想像もしなかった提案に、私は思わず大声をあげていた。石壁に囲まれたこの天井だけが高い部屋に私の素っ頓狂な声が響きわたる。


 思わず衛士が飛んでくるんじゃないかとびびりましたが、世恋さんの声じゃないので無視されたみたいです。よかったよかった。もとい全然よくない。


「そうです風華様。私達の年齢の女の子が集まったら恋話に決まっているのではないのですか?」


「いや、そんな事はないと思いますけど……」


「風華様、私は兄をはじめ普段は城砦のおじさま方しかお会い出来る方々がいなくて、しかも人見知りなものですからそのような機会が全くありませんでした。今回、風華様とご一緒できてしかもこんなにたくさんお話をすることもできました。時間もたっぷりあります。赤葡萄酒も手に入れました。ぜひ、あこがれの恋話を私とさせていただけませんでしょうか?」


「いや、ちょっと待ってくださいせ、世恋様。もうだめだ。無理です。世恋さん、お願いですから様付はやめてください。様付で恋話しようなんて言われても何をどうしたら、いやそもそも様をつけるかどうかの話ではなくてですね……」


「そうですね。すいませんでした。私たちはすでに兄弟姉妹ですから皆様に『様』をつけて呼ぶのは失礼でしたね。では改めまして風華さん、ぜひ私と一緒に恋話をしていただけませんでしょうか?」


 世恋さんは、前に衛士にお願いをした時のように両手を前に組んで期待感いっぱいの目で私を見つめている。今はあの断れない衛士さんの気持ちが少しは分かった様な気がします。


「世恋さん、恋話ってネタが、ネタがないです。普通それはよく知った女の子同士が集まって、知り合いや自分の恋愛、あるいは顔見知りの男の子についてあれやこれや話しますけど、そもそも私は世恋さんの事よく知らないですし、世恋さんも私の事しらないじゃないですか?」


 私は助けを求めようと周りを見渡したが、歌月さんはもちろん知らんぷり。百夜ちゃんは、もっか麺麭を食すのに集中しているのか、まったくこちらの話に興味がないのか、多分両方ですね。誰も、誰も、誰も助けてくれない。


「風華さん、そんなことはないと思いますよ。あるじゃないですか白蓮様です!」


 世恋さんが赤葡萄酒が入った器(あのお酒を飲むむには年齢が少し……)を私に押し付けてがぶり寄ってくる。


 この人、こういう種類の人でしたっけ。言っていることとやっていることがうちの前の肉屋の娘と同じなんですけど……。


「白蓮はですね、父が連れてきた我が家の居候でして。居候は居候じゃないですか?」


「ですよね。ご一緒に住まれているんですよね。私が白蓮様から聞いた話では、お父様がお亡くなりになられた後、お父様の事は大変ご愁傷様でした」


 世恋さんはそう私に告げると、頭を下げてくれた。だが口をつぐむ事なく話を続けた。


「今は白蓮様と、風華さんのお二人が一つ屋根の下で暮らしているとお聞きしましたけど?」


 あの、白蓮様はやめてください。私の知らない誰かの話に聞こえます。一つ屋根の下という言い回しもやめてください。いやらしすぎです。


「あのですね、確かに屋根は同じかもしれませんが、あれがすんでいるのは3階の屋根裏部屋。元は鳥小屋だったところです。私が住んでいるのは二階。三階から二階へ直接降りる手段はありません。あってもそんな危険なものは速攻でつぶします。それにあの男はうちに来る前の記憶がないという、つまり本物の〇〇でして、とても恋愛の対象になるような人ではありません!」


「風華さん、すごくうらやましいです。過去を知らない謎の人と一つ屋根の下で暮らす。もう絵物語の世界そのままじゃないですか?」


「危なすぎです!もしかしたら恋人がいたり、いや子供だっているかもしれないんですよ!」


「そのくらいの危険があった方がどきどきしませんか? それに良く分からないものに嫉妬するよりも今を楽しんだ方が良くありませんか? 『過去を取るか今の私をとるか選んで!』なんて素敵すぎます」


 世恋さん最強種な上に〇女子なんですか!? だいたいあなたに「私を取るか彼女を取るか、」なんて言われた日には世のすべての女が敗北者です。


「それでお二人でお出かけするときには、どちらに行かれるんですか?」


「お・出・か・けですか? あの、彼は森に採取で忙しいですし、私は店が『緑の三日月』という店がありまして、お互いそれぞれにとても忙しいのでそんなどこかに行くなんては……」


 世恋さんは少し首を傾げるとおもむろに私に問いかけた。


「では昼はお忙しい分、夜はお二人で子づくりに励まれたりされているのでしょうか?」


 え……世恋さんいま真顔で私に何を聞いています?


「『子』・『づ』・『く』・『り』・・ですか?」


 思わず手にした赤葡萄酒を飲み干してしまった。


「はい、子づくりです」


 世恋さんは私に躊躇することなく答えた。


「だ……、誰があの白蓮と子・づ・く・り・・するんでしょうか?」 


 世恋さんが、私の器に赤葡萄酒を注ぎつつ耳元でささやいた。


「もちろん風華さんですよ」


 おかしいです。収穫祭の後で今朝はすごく寒かったのに今日は暑すぎです。


「あの世恋さん、私と白蓮は決してそういう関係では、あ・り・ま・せ・ん!」


「えー、そうなんですか? それとも白蓮様って風華さん以外に親しくしていらっしゃる方でもいるんでしょうか?」


「いません!あんな危険男は誰も相手にしません!」


「そうですか? 白蓮さんってかっこいいと思いますけど。風華さんを身を挺して庇っていましたよね」


「あの、白蓮がかっこいいですか? 『おもかろい男ですよ』。世恋さんは絶対に『目』悪いですよね?遠くのものがよく見えないとか、かすんで見えるか……」


「く…………ははははははは!」


 背後でとうとう耐え切れなくなったのか、歌月さんの笑い声が響いた。今や私にとってこの部屋は地獄の暑さです。


 のどが渇いて渇いて……。あれ?また器が赤い液体でいっぱいになっている。このままではいけません。話題を振りなおさないと焼け死んでしまいますぅぅぅ。


「世恋さんは……、世恋さんはどうなんですか? きっと世恋さんに告白する素敵な男性がいっぱいいますよね。白蓮みたいなどこの馬の骨か分からないとか、葉っぱとってくるしか能がない男ではなくてですね、領主様の息子とか、領主どころかどこかの国の王子様とか? も、もしかしてそのような方々と子・づ・く・り経験者ですか?」


 思わずゴクリ。また赤い液体を全部飲んでしまいました。


「いやですね風華さん。風華さんよりお姉さんだと思いますが私はまだ乙女ですよ。そもそも『城砦』には私と気軽にお話ししていただける殿方は誰もおりません。それに残念ながら世の殿方は私の体しか興味がないようです」


 世恋さん、さりげなく相当に大胆な台詞を……それに……そんな立派なものを持っていないから私にはじぇんじぇん分かりませぇん。。


「それに人見知りですので自分から話しかけることなどとてもできませんし(それ絶対嘘ですよね!)。今回こちら『追憶の森』に寄らせていただいて、白蓮様や風華さんとお友達になれたのが本当にうれしくて……」


 世恋さんがそっと涙をぬぐ……、え、本当に泣いているんですか? 本当ですか!もうわけがわかりませーん。


「一度、私の手を握って好きだと告白してきた方がいらっしゃったのですが……、」


 世恋さん、あるじゃないですか……こ・い・ば・な!


「その後しばらくお会いすることがありませんで、再度お会いしたときには、おかわいそうなことに大けがをされていました。両手をなくされてしまっていたのには本当にびっくりしました」


 いきなりですか!?


「なんでもマ者に持っていかれたそうで、残念ながらそのあと城砦でお姿を見ることはありませんでした」


 あのーー、それは旋風卿と言う名前のマ者だったんではないでしょうか?


 それにこれは「こ・い・ば・な」ではなくて「取り扱い注意」の類です。これ絶対に白蓮に忘れずにいっておかないと彼の手が…………でも天井がくるくるです。


「あらあら風華さん、だいぶ酔ってしまったみたいですね。大丈夫です。明日も十分に時間はあります」


 世恋さんは私にそう告げるとにっこりと微笑んだ。お願いです。もう許してください世恋様!


 はくれ~~ん、はやくわたしをたすけにこ~~い!

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― 新着の感想 ―
[一言] 一人称の地の文がうまく状況を補完してくれていて読みやすいと思いました。キャラの個性が生きた掛け合いも軽妙で楽しい感じが伝わってきました。
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