試合終了
「おばさん、試合終了だよ」
多門は椅子を後ろに倒しながら、執務机に向って、書類に目を落としていた冥闇卿に声をかけた。
「あら、あら、多門君にしてはあきらめがいいわね」
やっぱり、この人は苦手だ。おそらくここで一番俺の事を理解してやがる。
「仕方がない。美亜を人質に取られた」
おばさんに向かって両手を上げて見せる。
「そうね。多門君の一番の弱点を突いてきたわね。うまい手ね」
おばさんが納得した顔をする。おい、おい、相手のやり口を感心してどうするんだ?
「で、どうするつもり?」
「仕方がない。彼らの望み通りという奴だ。あれを吊るす」
もともとはそうするつもりだったのだ。どんなにつついたところで大した情報なんて出てこない。生かしているという点以外には意味はない。やつらの言う事を聞いてやれば、少なくとも美亜にこれ以上手出しはしてこないはずだ。
「あら、全面降伏ね。あーちゃんはどうするの?」
「小娘か? 自分で森に行くといったんだ。俺がどうのこうの言う話ではない」
「驚いたわ。あなたがそんなことを言うなんて」
おばさんが本当に驚いた顔で俺を見る。俺自身もびっくりだよ。
「俺はあれの親じゃない。俺もおっさん達の事は言えないな。最近は色々なものが変わってしまったような気がする」
最近、だれかの運命やら将来については自分でなんとかしたい、すべきだという奴が多すぎてね。俺もどうやらその影響とやらを受けているらしい。あの赤毛は知らないうちに、人に悪影響を及ぼすことこの上ない。まるで害虫だな。
「あの娘は大したものね。あのお馬鹿さん達だけでなく、あなたまで篭絡してしまうなんて」
おばさんも同意見かい? ちょっと待て!
「おい、おばさん。誰が篭絡されったって?」
俺をおっさん達と同じに見るのはやめてくれないか。俺は運動服やらを見て、にやにやする類の男じゃない。
「美亜だって、ここに来たばかりの時とは違うさ。それに今はここにいるより、森にいた方がはるかに安全だ」
昔よりちょっとばかり森が安全になったせいか、ここは色んな奴の思惑が多すぎる。
「それはそうね」
おばさんも頷く。この人はやっぱり苦手だ。色んな事を知っていすぎる。
「では、行ってくる」
「お手伝いしましょうか?」
確かに、あんたも得意な事だが……。
「これは俺の本業だよ。おばさん」




