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「本気か?」


 多門は目の前にいる若い女性に向けて、書類を突き出した。彼女は後ろ手に手を組んで、背筋をまっすぐに伸ばし、微動だにせず前を見ている。


 まあ、これが監督官を前にした、研修生の普通の姿だ。あいつみたいに、こちらの指示を無視して入って来た挙句に、いきなり土下座するなんて奴は普通は居ない。いや絶対に居ない。


「はい、監督官殿」


 多門は書類を執務机の上に置くと、椅子を後ろに倒した。


「こんなかび臭いもの、今どき流行らないぞ。せいぜいどこかの田舎結社くらいのものだ」


「はい、監督官殿」


「それにあいつは、絶対に意味が分かってない。全く分かってない。俺が保証する」


「はい、監督官殿」


 まあ、普通は俺に向かって研修生は「はい」以外は言わないな。なんかあいつと会ってから、俺の方がおかしくなったのか、これが普通では思えなくなってきている。


「楽にしろ、許可する。お前の言葉で理由を述べよ」


「私は一度は死んだ人間です。そう思っています。なのでこれからは、自分の生きたいように生きることにしました」


「今までは違っていたのか?」


「はい。マナが使えた私は、私が冒険者になって家族を養うのが、私の使命だと思っていました。私がいないと、親が兄弟が生きていけないと。そのために生きているのだと」


「違ったのか?」


「はい。父はまだ元気です。十分働けます。自分だっていつ何があるか分かりません。冒険者として生きていくのであればなおさらです。そして妹や弟もいずれ自分達で働き、自分達の家族を持ちます。私が皆を養わなければいけないと思ったのは、私のおごりでした。父が、兄弟が私を頼り、私がいないと生きていけないと思うのであれば、それは私の家族のおごりです」


「俺には十分に、立派な心がけだと思うけどね」


「はい、監督官殿」


「少しは研修で『組』ってやつが分かったという事か?」


「はい、監督官殿。お互いに信頼し、助け合う事は必要です。ですがそれは、依存することとは違います。それが今回はっきりと分かりました」


「でもこれは、お前の新しい依存ではないのか?」


「はい、監督官殿。申請の内容通りです。風華さんは私の手本なんです。いままで誰かに依存することでしか生きてこれなかった私の。誰にも依存するわけでなく、だけど誰かの為に命を投げ出すことすらためらわない、あの強さを私は学びたいのです」


 思わずため息が出る。どうしてあの小娘はこうも周りをひっかき回すんだ。おかげで、こちらはいつも大迷惑だ。


 お前の考えは決して間違ってはいない。だが、考えが間違っていないからと言って、それが普通の人が考える、人生の幸福とやらにつながるかは別の話だぞ。まあいい、それは俺が決める話ではない。


「申請を受け付ける。結果は追って沙汰する。以上だ」


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