勘違い
すでに薄暗くなった中、馬車は行きと同様に快調に走っていく。
だけど私の心は行きと帰りでは大違いだった。今は、明日あの人にあったら何を話そうか、そして私があの人に、友達としてしてあげられることは何だろうか、という事を考えている自分がいる。
前の男の子達は、今日会った人々の事を興奮気味に語り合っている。私もあの人と、この子達みたいに、こうして他愛もない話を出来るようになるだろうか?
「実季さんも驚いた? まさかあの旋風卿が風華さんの彼氏だったなんて」
私の視線に気が付いたらしい、おとなしい方が私に語り掛けて来た。旋風卿? 彼氏?
「だよな。いいかげんな奴なら、なぐってやろうと言っていたけど、あの北壁戦役の英雄じゃなぐるわけにもいかないよな」
うるさい方も私に話しかける。この子達は何をどう勘違いしているんだ?
「まあ、これですっぱりあきらめがついたな」
「うん、しょうがないね」
本当に勘違いも甚だしい。もう我慢できない。
「はははは、はははは……!」
革張りの椅子の上で、笑い転げる私を見て、二人がきょとんとした表情をしている。
「おい、お前。何を笑っているんだよ。俺たちが旋風卿には敵わないって言ったのが、そんなにおかしいか?」
「まあまあ、才雅。その言い方は良くないよ」
この人達は全く分かっていない。もうこれだから、女を知らない男というのは始末に負えない。
「風華さんの彼氏は、さんざんいじられていたあの色白の男よ」
二人が驚いた顔をして、お互いの顔を見ている。
「本人、あの白蓮という男から聞いたから、間違いない。あの男が風華さんをだまして、結社に入れた張本人よ」
「え、ええ?」
「あれが!」
残念。二人には、あの女たらしの男をぜひ殴って欲しかった。
「もしかしたら、俺達にも機会はあるかな?」
「ありそうな気がする」
がんばれ、少年達。私の大事な友達が、「いい女ほどだめな男に貢って」やつにはなって欲しくない。それと、殴るなら遠慮せずに思いっきり殴って。
* * *
あの友達は大丈夫かい?
少なくとも宿舎までは、護衛をつけてあるから大丈夫でしょう。あの者達はそれなりに腕が立つ人達です。それに一応は手は打ちました。
あんたがそう言うなら大丈夫だろう。何かあったらあの子は壊れるよ。
長い手を使うと、この件が研修生同士のいざこざじゃなく、裏があると宣伝するようなものですからね。それに大人たちは教官を抑えているから、尻尾のあの子を、今殺すのは得策じゃないでしょう。後のことは……まあ分かりません。
本当は監督官に、さっさと始末してもらいたかったんだろうけどね。裏は?
多分、私達に死んでほしかった人達と同じ人達ですな。
どこかで先手を打たないとじり貧だね。
そのためにもあの子は必要です。私達の切り札ですよ。
あの子を何かの道具みたいに言うのはやめておくれ。いくらあんたでも許せないことはあるよ。
失礼しました、監督官殿。でも勘違いはしないで頂きたい。これでも私は真剣に、あの子達の事は心配しているのですよ。
それはもうとっくに首だよ、特別監査官殿。それにあんたの性根の曲がり具合も相当なもんだね。




