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先触れ

「どれだけ書類を作って、先触れを送らないといけないと思っているんですか?」


 旋風卿はぶつぶつと文句を言っていたのだが、世恋さんの「お兄様!」という言葉の威力の前に伏して、何やら書類を整えてくれた。それに歌月さんが、


「ここでは私も少しは魔法ってやつが使えるのさ。上着の裾をあげた面倒分は取り返さないとね」


 と言って、やはり何やらお手紙を書いてくれた。どうやら私の希望は叶うらしい。


 みんな、本当にありがとう!


 白蓮はちょっとだけ私の知っている白蓮とは雰囲気が違っていた。口で説明しろと言われると難しいのだけど、ちょっとだけ頼りなさがなくなって、なにやら精悍さが加わったような気がする。


 ただ精悍なんて台詞は、こ奴にはもっとも似合わない言葉のような気もする。


 それになんだろう。


 ほんのちょっとだけ会わなかっただけなのに、会話がぎこちなく感じる。前は何も考えずに出ていた言葉を、頭の中で探している自分がいる。そのせいか、ちょっとだけ白蓮が遠く感じてしまった。


「風華さん、研修はいかがですか?」


 世恋さん、その言葉を待っていました。私の愚痴をまともに聞いてくれるのはあなただけです。


「酷いんです。あの運動服って何ですか? 足丸出しなんですよ。あれって、絶対に、ここの偉いおじさん達の趣味ですよね? もしかして世恋さんも着ました? きっと世の男全員がガン見ですよね」


「運動服ですか? さあ、私は着たことがないですが……」


「ふーちゃん、貢献度がある程度ある人は研修なんて受けなくていいんだよ」


 ちょっと待て、お前は今、『研修なんて』と言ったな。どうやら私の表情に気が付いたらしい白蓮がしまったという顔になる。まあいい、久しぶりにあったのだ。今日は私の誕生日だから広い、広い心で許してやる。


「そうね、()()()がまったく()()からしかたないですね」


 ここで、にっこり笑顔です。白蓮の顔が引きつる。あと半刻は落ち込んでいろ。


「まあまあ。でも風華さん、すごいですよ。冒険者なりたてで、ここの研修についていっているんですから。私にはとても無理です」


 世恋さんがそう言って、私の器に赤葡萄酒を継いでくれた。白蓮、お前は世恋さんの爪の垢を煎じて飲め。いや、喜んで飲みそうだから飲まなくてよい。


「ぜんぜん、ついていけていないです。お約束が多すぎです。それに森を移動するのに、こんなに計算させられるとは思いませんでした」


「まあ、普通は整備された探索路を使って移動するので、地図の確認で十分です。いつも計算が必要になる訳ではないですし、私も苦手ですね」


 そう言って「てへ」って、顔をする世恋さん。やっぱり貴方は最強種です。それに研修を受けてみて、この人達が冒険者としてすごい人達なのだという事もよく分かりました。


 どうか才雅に、あの未確認男に、爪の垢を煎じて飲ませてやってください。


「それに、基礎を全くやってくれないんですよ。手信号とか、マ者の種類とか。自習しないといけないので、夜も遅くて寝不足でお肌なんてもう荒れ荒れです。朝に鳥が窓際でぴーちく、ぱーちくうるさくて起こされちゃいますし……」


 あれ世恋さん、動きが止まっていますよ? 食べ物をがついている百夜以外の皆様も固まっていますね。


「ふーちゃん、その鳥ってね……」


「風華、あんた()()()って何か、全く分かっていなかったの?」


 歌月さんが手を額に当てて、謎の言葉を私に聞いてきます。何ですかそれ?


「そう言う事ですか。それで何も返事が来なかった訳ですね」


 何やら納得顔の世恋さん。


「こちらはてっきり研修の方針で、何も返信が出来ないのだと思っていました」


「え、何のことですか?」


「その毎朝、大合唱していたのは先触れという通信用の鳥ですよ。そのうち貴方も飼う事になります。ちょうど返事がきました。あれです」


 旋風卿はそう言うと、私にそれを指差して見せた。どこから入って来たのか、窓際の小さな卓の上に茶色と黒の縞模様の鳥がちょんと乗ってさえずっている。その小鳥は旋風卿の指の上に飛び乗った。何これ、すごくかわいい。


 旋風卿はその鳥の足についていた小さな紙片を取りだすと、中身を一瞥した。


「どうやら、貴方の新しいご友人とやらは、こちらに向かっているようです」


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