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「ではこの件について、研修生については穏便に済ませるという事でいいんだね?」


 遠見卿はそう言うと居並ぶ人々を見渡した。


「いいも何も研修生の扱いを決めるのは研修組の仕事だ。現場が穏便に済ませると言っているんだ。俺達が口を出すことじゃない」


 穿岩卿が遠見卿に間髪入れずに答えた。


「研修生を穏便にすませるとなると教官も吊るすわけにはいかないな。こちらはどうする」


 遠見卿が再び居並ぶに人々を見渡す。


「こちらの取り扱いについても多門の方から意見はあった。裏が分からないからすぐに吊るすのは得策じゃないという奴だ。多門としてはこれらは単なる研修組の気のゆるみじゃないということらしい」


「まあ、そうだろうね。単に金に目がくらんだだけならここまで危険な橋を渡る必要はない。監視は?」


 音響卿が遠見卿に問いただした。


「付けてある。長い手で殺されても困るからな」


「今は何を信じていいのかは分からないね。マ者の相手の方がはるかに楽だよ」


 音響卿はそう言うと、彼の長い白髪を指に捲いてもてあそんだ。


「俺にとっては小物達なんかはどうでもいい。あのお嬢さんがここからいなくなるのは寂しすぎる。それに今回の件は多少無謀では有るが見事だよ。それに多少の無謀は悪いことではない」


 穿岩卿がまるで孫の何かを語る爺様のような表情で答えた。


「それは私も同感だね。近年まれにみる楽しさだ」


 音響卿もすかさず同意した。


「あなた達、あの小娘に(ほだ)されすぎですよ」


 冥闇卿の叱咤する声が響く。


「それにあの子がこんな事を言ってくるなんて、一体どうしちゃったのかしら?」


 冥闇卿がいかにも信じられないという表情で周りを見た。


「多門にも少しは人の機敏ってやつが分かってきたという事じゃないのか?」


「あの子もあなた達と同じであのお嬢さんに惑わされているのね。あーちゃんがかわいそう」


 冥闇卿の顔にあからさまな嫌悪の表情が浮かぶ。


「あの子がいろいろと変わるきっかけを与えてくれているのは確かだね。私達だってこうして話し合いを持つこと自体ほとんどなくなっていた」


 遠見卿の言葉に皆が頷いて見せた。


「まあ、色々とあきらめてしまっていたからね。その気にさせてくれたのはあの子のおかげさ」


「本当に、小娘に弱い色呆けさん達ですこと」


「そう言うな、お嬢。昔のお前さんの方がよっぽどかわいかったさ」


「音、このうるさい人を黙らせて頂戴。出来れば永遠にね」


* * *


 なんて心が軽やかなんだろう。体のあちらこちらは打ち身に青あざだらけで、お風呂になんてとても入れませんという感じだが、そんなものは何も気にならない。気になる訳がない。


 あまり人気のない、宿舎から研修所に向かう近道の裏路地を踊って歌いたいぐらいの気分だ。相手が百夜しかいないのが本当に残念。だれか私の踊りに付き合ってくれる素敵な人はいませんかね? まあ、せいぜい収穫祭の田舎踊りしかできませんけど。


 多門さんは「上がどう言うか」とか言っていたが、あの人がああ言ってくれた以上、多分大丈夫だ。あの人は自分が言った言葉には責任を持つ人だ。


 それで多門さんに何か迷惑をかけてしまう事になったら? その時は関門に来た時の事と差し引いてちゃらという事にしてもらおう。うん、それでいい。


「赤娘、ご機嫌だな」


「分かりますか?」


「当たり前だ。誰でも分かる」


「多分、実季さんは助かります。みんな助かります」


「それは良かったな。ならばお前は我の餌係としてよく働け」


「はい、はい、百夜様」


 おっとっと、めずらしく馬車がここを通っていく。浮かれているとひかれてしまう。こんな気分のいい日に、馬にけられて死んでしまうなんて事になったらもったいない。


「風華様に、百夜様ですね」


 なんだろう、この黒ずくめの人は?


「え、どなたでしたっけ?」


 馬車の扉が開いたと思ったら、私達二人はあっという間にその中に放り込まれていた。


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