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 なんで俺の周りには面倒な事ばかりが起きるんだ。


 馬鹿なやつらが馬鹿な事をやってくれたものだ。やつらをこれほどまでに焦らせている原因は一体なんなんだ? 元を理解できていない現状で末端のあれやこれやを叩いたところで何も意味はない。


 美亜にも少し休みをやるべきだろうか?


 あれはあの馬鹿と一時的とは言え同じ組だった。さっさと森から引き上げさせたのは正解だった。あんな馬鹿と同じ組にいたら命がいくつあっても足りない。


 どうして研修組はあれを引き受けた。組での居場所がなくて押し付けられたのか? いやそんな事はない。これにも裏がある。


 ともかく研修組の腐り方は思った以上だ。遠見卿をはじめ、おっさん達だってここまでひどいとは思っていなかったはずだ。本来の冒険者が冒険者を選んで組を作るというやり方は、非効率だったかもしれないが確実なやり方だったのかもしれない。


 だが、面倒ごとを俺にすべて押し付けるのは勘弁して欲しい。俺だって好きで人を吊るすわけじゃない。理由があるから、そうしなければいけないから吊るすんだ。


「うるさい奴」


 暗がりから唐突に声が聞こえた。俺にこんな呼び方をする奴は一人しかいない。


「子供が起きている時間じゃない。それに外をうろつく時間でもない。小娘にしかられるぞ」


「あれはよく寝ている。さすがに疲れただろう。我も疲れた」


「俺は忙しい。迷子になったなら、他の奴を呼んでやるからそいつについて宿舎に帰れ」


「お前に用があって来たのだ」


 確かに偶然に来るにはここはおかしな場所だ。


「どうして俺の居場所が分かった?」


「お前はおもかろいか、つまらないかよく分からないやつだが血の匂いがする。それをたどった」


 それはするだろうさ。何人を吊るしてやったか分からない。だがどうしてこいつは俺の居場所が……。まあそれは今はどうでもいい話だ。


「何の用だ? さっきも言っただろう。俺は今はすごく忙しいんだ」


 驚いた事に黒いやつは突然地面に手をつくと頭を地面にこすりつけた。


「あの娘を殺さないで欲しい」


「ちょっと待て、お前は何をしている!?」


「お願いするときにはこうするのだろう? 赤娘が言っていたぞ」


 黒い奴は頭を上げると怪訝そうに俺を見た。あの小娘はこいつに一体何を教えているんだ?


「あの娘というのは、お前達が助けた娘か?」


「そうだ、その娘だ」


「どうして助ける必要がある? お前達を殺す片棒をかついだ奴だ。まあ、裏切られて一緒に殺されるとは思っていなかったと思うがな。おかげで色々と調べる手間が少なくなった事についてはお前達に感謝している」


「あの娘の命が必要なのだ」


「お前は規則というものを知っているか? 規則によりあの娘も吊るされる。当然だ。それから逃れることは俺が許さん」


「あの娘が死ねば、赤娘は何があろうが二度と森に入ることは無い。自分がどうなろうがここも出ていく。あれは強くて弱いのだ」


「何でお前はあの赤毛にそれほど肩入れする?」


 こいつと、あの赤毛の関係は一体何なんだ。資料にも特に何も無かった。偶然に追憶の森の結社で一緒になったとしか思えない。黒い奴は当惑した表情で首を振った。


「分からん。何も分からんのだ。我は何かを待っている。それも何かは分からん。赤娘は我をどこかへ導いてくれる。これまでそうだった。きっとこれからもそうだ。我にはあれが必要なのだ」


 黒い奴は、もう一度地面に頭をこすりつけた。


「お願いする。あの娘を殺すな。あの娘を殺せばそれは赤娘も殺してしまうのだ」


 こいつは少なくとも子供じゃない。子供のふりをしているだけだ。だがあの赤毛の前では本当の子供に見える。一体こいつは何なんだ?


「あの娘だけ吊るさないなんて出来るか!」


 お願いされても、世の中には出来る事と出来ないことがある。


「ならば簡単だ。全員殺すな。無かったことにしろ」


 なんだ、何かさっきとは違う。


「それが、赤娘にとっては一番いい」


 こいつは右目も開けられるのか?


* * *


「おもかろい妹。大儀だったな」


「世恋です。百夜様」


「私が百夜様のお手伝いをさせていただくのは当然です。ですが疲れ果てました。あの娘といい、風華さんの周りは筋金入りの頑固者だらけですね」


「そうだな。だが赤娘がもっとも手強い」

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