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理解

 マナ除けを被って入った森は何やら奇妙だった。静かすぎるのだ。彼女達がまだ襲われてなくても、すでに襲われてしまったとしても、黒犬の気配がするはずだ。


 何が起きているの?


 一人で森に入るなんてのは常識外れどころじゃない。自殺みたいなものだ。探知役も、守り手もいない。どこから黒犬が飛んでくるかも分からない。気を許すと指先が震えそうになる。森をこんなにも怖いと思ったのはいつ以来だろう。


 だけど森の外でただ眺めているなんて事が出来るだろうか? 出来る訳がない。音を殺して一歩一歩を恐怖と戦いながら進む。お姉さまが居ないというのはこんなにも心細かったんだ。


 どこからか声が聞こえてきた。良かった。誰かまだ生き残っている子はいる。気配を探れ。いつでも打てる準備を……。


 何なのこれは?


 あの子達の前に二十頭近い黒犬が横たわっている。これは、一体誰がどうやって?


 それに全員無事だ。何故だ? 理朝の組の子も居る。


「男共よ、さっさと立ち上がれ。いつまでお尻をついているんですか? お尻が濡れますよ」


 あの子は何を言っているの?


 みんな無事なの? なんともないの?


「これは食えないのか?」


「さあ、私は犬料理って知らないな。なんか東の湿地帯の奥の方では食べるとか寧乃ちゃんが言っていたよ」


「あのおもかろい子供か? 子供の話だぞ」


「あんただって子供でしょうが?」


「鳥もどきの方がうまそうだな」


「そうね、これはおいしそうには見えないね。鳥もどきはまだ食べてないけど、どんな味なのかな?」


「おまえ、もう食べてるぞ」


「えっ、いつ?」


「お前が白蓮を殺そうとした時に、何匹か来たから壊したのをおもかろい兄がさばいた」


「えーーー、ぜんぜん知らなかった。あれって雉とかじゃなかったんだ」


「でも私は普通の鳥の方がいいな。弥勒さんの鶏料理最高だった」


「うん、あれはおもかろい」


 思わず全身から力が抜ける。


 室長、私にもやっと分かりました。この子は決して弱くなんかない。強いんですね。とてもとても強いんですね。その強さは、腕力やマナじゃない。貴方と同じ強さなんですね。


 そして、大人達が貴方を『特別監督官』にした理由も分かった気がします。大人達に気まぐれなんてあるわけ無かったです。


 ここの掃除のためだったんですね。

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