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 私は才雅の手を引いて杉の木の大木の後ろに駆け込んだ。朋治君が驚いた顔で私を見る。


「風華さん、閃光弾なんてどこで……」


「説明は後。百夜、向こうは?」


「動いていない」


「向こうの目が全く効かないのはせめて1時(5分)ぐらいかな。ともかく逃げないと」


「戻るか?」


 才雅君が後ろを振り返って言った。探索路にさえ戻れば出発地点まで戻るのは簡単だ。


「狼煙玉は?」


 何かあって訓練が中止になるのであれば、狼煙が上がることになっている。


「見えない」


「なら前に進む。向こうもこちらが出発点に戻ると思うはず」


 私達は森を全力で奥へ、西へ向かって進んだ。ありがたいことに私の方位石はまだ手元にあった。探索路がどこにあるか分からないけど、状況から考えて私達の右手、北にあるはずだ。まだあの杉の大木は後ろの枝の間に見えている。


 今が冬で良かった。これが夏とかなら葉に遮られて何も見えないとこだった。もしかしたら先行組においついてしまうかもしれないが、ともかく距離が稼げそうなだけ稼ぐしかない。


 とりあえず、これ以上は走れないというところまで私達は走った。朋治君が百夜を背をってくれ、私はというと最後の方は才雅君に手を引いてもらって何とか走っていた。


 こんなところで毎朝宿舎の周りを走らされたのが役に立つとは。最後は大きな木に囲まれた藪の隙間で三人でぜえぜえと荒い息を吐いていた。


「百夜」


「あのおもかろい奴はいない。何もいない、と思う。よく分からぬ」


 百夜にしては歯切れが悪い。とりあえず撒けたのだろうか? 一応地面に耳をあててみるが、誰かの足音のようなものは聞こえない。補聴器があればいいのに今回は持ってきていない。


「多分……この。実地訓練……というのは、教官を相手にした……生き残り、訓練なんだと思う」


 私は自分の考えを他の二人に語った。何か口にしようとする度に肺がひどく痛む。


「さっきのは、美亜教官が?」


「美亜さんじゃない」


 美亜さんの力は良く分かっている。


「対抗戦の時の……実季さん。あれは、美亜教官の……力よ」


「じゃ、」


 やっと息が少しはまともにできるようになってきた。


「多分これは……理朝教官だと思う」


 美亜さんでもなく、おっさんでもないなら残りは理朝教官しか居ない。あの人は風使いなんだ。それも相当に力のある。


 そう言う事は先行組は美亜さんに襲われているという事? あんな力のある人に襲われたらどうなってしまうんだろう。


「どうする?」


「指示票と記録を見直して私達の位置をとりあえず推測しよう。それに先行組も同じように襲われている可能性もあるけど指示票での先行組からの二回目の指示受け地点に向かう。他に道はないと思う」


 しっかりしろ男達。ここで逃げ帰ったら君達はすぐに関門の向こう側送りだぞ。ここまで頑張ったんだ。やれるとこまでやるしかないでしょう。


「また、襲われる可能性は?」


「今度は油断はしない。百夜に探知してもらいながら用心して進む。さっきはこちらの位置が完全にばれていたけど、位置がばれていなければ何とかなると思う。だから音には注意しながらみんなで離れずに進もう」


「お前はあきらめの悪い女なんだな」


 才雅(お前にはもう君はつけてやらない!)が私を見てにやりと笑った。なんですかその言い方は? まるで私が男の尻を追いかけまわしている女みたいに聞こえるじゃないですか!


「探索路はさすがに無理かな? 印の確認もあるからできれば視界には入れて進みたいけど。それにもともとの余裕分と今回走った分があるから、時間的には遅れてないと思う」


 朋治君もやる気になりました?


「百夜ちゃんは、僕が背負うよ。いつでもすぐに逃げる準備をしておいた方がいいからね」


「朋治、交代でいこう」


「まだ先は長いですよ。皆さん、がんばりましょう」


 朋治君が何やら私に止血布を差し出した。


「百夜ちゃん、口の周りは拭いておいた方がいいよ」


 それは先に言ってくださいな。


「おい、あれって印だよな?」


 才雅がいきなり声を上げた。藪から出た私達の目の前に先行組が残したらしい印がある。そしてそれは何故か南を指していた。


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