酔っ払い
あれ、私はいつの間に寝てたんだ。
回りを見ると、百夜の前には沢山の皿が重なり机に突っ伏して寝ている。才雅君と朋治君はというと赤葡萄酒の器を片手に二人で何やら話をしていた。二人の皿も空だ。気が付けば店は大勢のお客さんでいっぱいになっている。
いけない、私はいったいどれだけ寝ていたんだろう。頭が少し痛い。これはきっと後から相当に来るな。弥勒さんからもう少し二日酔いの薬をもらっておけば良かった。
「お、やっと起きたか?」
「風華さん、大丈夫?」
才雅君と朋治君が私に声をかけて来た。ちょっと頭が痛いですけどね。それ以外は多分大丈夫でしょう。
「お会計しなくちゃね」
才雅君が空いた器を下げていたお姉さんに声をかける。うんうん、君も最初の不審人物感は大分なくなりました。お姉さんは、書類を一瞥するとそこに羽筆で署名を求めて来た。とりあえず私の名前で署名する。
「本日は、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
うんうん、いいね。こういうところがちゃんとしているからこの店は流行っているのかな?
「百夜、百夜、この黒娘、起きろ!」
「起こさなくて大丈夫だよ。僕と才雅で宿舎までおぶっていくから」
「悪いよ。起こします」
「気にするな。この子くらいはどうということはないさ。それに最近は腕回りも少し太くなったような気がするから大丈夫だよ」
これだけ食べた後だから少しは重くなっていると思います。悪いですね少年達よ。でも出る前にお手洗いに行かせてください。途中で行きたくなったら大変です。私はお手洗いを探そうと辺りを見渡した。
何だあれ?
「才雅さん、朋治さん。申し訳ないんだけど百夜をつれて先に宿舎に戻ってもらっていいかな? ちょっとお手洗いいったり、化粧直したりで時間がかかると思うから」
我ながら、理由としてはちょっと無理があるかな? でもあなたの名誉のためですよ。
「分かった。帰り道は気を付けて。才雅、百夜ちゃんをぶつけないように。さあ、行くよ」
朋治君、君は物分かりが良くていい人です。才雅君は少し首をひねっていたが朋治君に即されて百夜を背に店の外へと出ていった。
私はなぜか酒の杯を両手に床の上に転がっている謎の物体へ向かった。
「監督官様、監督官様。こんなところで寝てはだめですよ」
起きない。
「監督官様!どんだけ酔っぱらっているんですか? お店に迷惑ですよ」
薄目を開けている。
「美空か? お前どうしてこんな……」
一体誰と間違っているんです。実は妻子持ちですか?
「しっかりしてください。私ならいいですけど他の人達に見つかったら監督官様の威厳にかかわりますよ」
監督官って偉いんですよね? 確か自分でそう言っていませんでした?
「威厳? 一体何を言っているんだ。おい小娘、お前どうしてここにいる!?」
もしかして頭打ちました? 記憶にないんですか?
「え、好きな場所で飲み食いしろって言ったのは監督官様じゃないですか? もう立ってください。ほら悲鳴が聞こえていますよ。みんなこんなところで誰か寝てたらびっくりです」
とりあえず多門さんの手をとって私の肩にかける。
「俺はお前の肩を借りるほど焼きが回ってはないぞ」
酔っ払いは困るな。みんな大丈夫っていうんだから。まあ、私も言いますけどね。
「何言ってるんですか、口から血が出てますよ。転んだ時に顔でも打ちました? 意外ですね。監督官様でも酔っぱらうと足元がおぼつかなくなるんですね。私と同じじゃないですか」
手巾は内衣嚢にあったよね。いつも借りていたから今日は私が返してあげます。
「さあ掴ってください。あ、会計しちゃったからな。すいません連れが酔ってしまいまして。この席は大丈夫ですか?」
「あいつらは……そうかおばさんが隠しやがったな」
何やら意味不明な言葉をつぶやく多門さん。あ、さっき私に会ったのをすごくびっくりしていたのはそう言う事ですか。
「誰かに騙されました? 自分から寄ってくる女性には要注意ですよ。下心というのは男の人だけじゃないですからね」
「お前は何を言っているんだ?」
ええ、分かっていますよ。多門さんも男ですものね。
「誰か女性を口説こうとしていたんですよね? なんでしたっけ、女性の名前を言っていましたよ。あ、大丈夫です。教官にも誰にも言いません。安心してください」
でも放り出されそうになったら、その時は切り札として使うかもしれません。
「おい、小娘」
「はい監督官様」
どんな言い訳か知りませんが、とりあえず聞いてあげます。
「お前はここをなめすぎだ。だがお前をみてると色々なことがどうでも良く思えてくる。お前は不思議な奴だな」
まだ酔いが回っているのかな? なんだろう。多門さんは少し楽しそうだ。それに気のせいか笑っているような気がする。だけど人を百夜と同列に見ていませんか? ちょっとそれは納得できません。
「そうですか? 普通だと思いますけど」
「おい小娘、普通の奴は監督官に『様』はつけない。覚えておけ」
「はい、監督官様、もとい監督官」
そう言えば、前にもそう言われたような気がする。




