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残念会

 百夜の超超身勝手な行動により負けてしまった私達は、美亜教官からどんなお叱りやら罰を受けるのかと戦々恐々としていた。


 美亜教官の表情から推測するには、どれだけ宿舎の周りを走らせようかとか、どれだけ腕立てさせようかとか考えていたに違いない。


 だが、どこからともなく忽然と現れた多門さんが私達に金色の薄片と書類を渡すと、今晩は好きな所で好きな物を食べてよいと告げた。美亜教官はものすごく驚いた顔をしていたので、教官は知らない話だったのだろう。


 私は百夜の頬っぺたをおもいっきり引っ張っていた手を離して思わず万歳をした。特別監督官様、本当にありがとうございます。美亜教官は多門さんに何やら食って掛かっていたが、こういう時はもたもたしていてはいけません。


 私達は両教官とかなり渋い表情をしていた倫人さんはじめとした理朝組に挨拶をすると、速攻で広間を出て着替えに行った。


 実季(みき)さんはまだ長椅子に寝かされたままだった。本当は声を掛けたかったのだけど、今、私が声をかけても彼女は何もうれしくはないだろう。明日、会った時に何か声を掛けよう。謝るのも変だし、正直なところ今は何を言えばいいのかは思いつかない。


 でも、私の言葉なんかいらないのかも。彼女が私を罵倒するなりして彼女の気分が少しでも晴れるのならそれでいい。


 何であんなに私を睨んでいたんだろうな? それだけはちょっと気になる。私が原因なら改めないといけない。特別扱いが原因ならそれは私ではどうにもならない話だ。


 ともかく多門さんの気が変わったり、美亜さんが多門さんの説得に成功する前に脱出できた私達は、女性向け宿舎の前に集合していた。何で女性向け宿舎の前かと言えば、やっぱり乙女としては男性に待っていてもらいたかったからだ。私にだってちょっとした見栄ぐらいはある。


「どこでもいいと言われていたけど何処にする?」


 才雅君が能天気に朋治君に聞いた。


「宿舎と研修所ぐらいしか行ってないから分からないよね」


 君達、女性を連れて行くんだから宿舎で店を聞いてくるとかしないとだめでしょう? それにその服、ダサすぎです。まあ、私も人の事は言えないか? 私服って、一の街を逃げ出すときに着ていたものだけだし、ここが関門じゃなくて本当に良かった。あのおしゃれな人達を前にこの姿では生きていけません。


「しょうがないですね。皆さん、私について来なさい」


「大将、お願いします」


 二人が私に向かって頭を下げる。君達、調子がよすぎです。


「赤娘、さっさと行け。我は腹が減った」


 はいはい、行きますよ。この前、多門さんにお昼を頂いた通りしか知らないですけどね。でもお前に食べる権利は本当にあるのか?


 私達は通りの中の高過ぎず、安過ぎず、中間ぐらいの早い時間でも客足のあった店へと入った。百夜はこの間のお高そうな店に入りたがったが、私達の今の服ではちょっと無理だ。


 それに何を食べてもいいと言われたからって一番高いとことか、遠慮して安過ぎる所とかを選んではいけない。私だって一応は商人だったのだからその辺りの常識ぐらいはある。


 まだ時間が少し早かったのもあって奥の落ち着いた円い卓に座ることができた。お品書きを見て一の街の値段との格差にかなりびびったが、特別監督官様の御威光を信じて好きなものを頼むことにする。


 ともかく今日は色々な事を忘れてぱっと行こう!赤葡萄酒の一杯ぐらい頼んでもいいよね。


「風華さん、すごいね。なんか慣れているという感じ」


「別に慣れてなんかいないですよ。庶民ですからね。自分の誕生日の時に父に連れて行ってもらうぐらいです」


 そう言えば忘れていたけど、自分の誕生日はもうすぐだった。


「それでもやっぱり街の人は違うよね」


「二人のお家は?」


「僕達二人とも大して大きくもない農家の次男坊だよ。街に行ったことすら数えるぐらいさ。ねえ才雅?」


「あ、そ、そうだな」


 才雅君、きょろきょろしすぎです。不審人物に思われますよ。


「料理が来たよ。みんなとりあえず乾杯だ。百夜、乾杯前に食べたら明日の白麺麭はないと思いなさい」


 百夜は水で、それ以外は赤葡萄酒を持って席を立った。


「それでは、皆々様のご多幸とご健勝を祈念いたしまして、乾杯!」


「乾杯!」


「我は食うぞ!」


 よく我慢した百夜。お主も少しは成長した。


「百夜ちゃん、取ってあげるよ。嫌いなものはある?」


「ないぞ!」


 朋治君なかなかいいですね。好きな子が出来たら是非やってあげてください。才雅君、君は何を肉団子に苦戦しているんだい? 私の方まで飛んで来たぞ。


「風華さんてはじめてすぐに城砦に来るぐらいだから、やっぱり元々冒険者になるつもりだったの」


「なるつもりなんか爪の先ほども無かったですよ。そもそも家は八百屋ですからね」


「八百屋!?」


 才雅君、口から肉団子の破片を飛ばすんじゃない。君は百夜と同じか?


「そうですよ。日が昇る前の朝から仕入れして、行商して、店先で売って、帳簿付けの繰り返しです。皆さんのお家のような農家は私の仕入れ先ですね」


「お前ちょっと待て、どうして八百屋が冒険者になって城砦まで来るんだ?」


 才雅君、興奮しすぎです。顔が近いですよ。


「どうしてですかね? まあ、一の街、復興領にある私が生まれた街ですけど、領主様が変わって他の街の領主様と戦になって、人質にされたりして大変な事になったんです。その時に家に父が連れて来た冒険者の居候が居て、その男に巻き込まれたというか、騙されて冒険者にさせられて今に至るですね」


「あんたみたいな町娘を冒険者にしたって?」


「そうですね。まあ父が八百屋と兼業で冒険者みたいなものをしていたので、全く縁がなかったわけではないですけど、なってみたら本当にそれはそれはひどい目にあわされました」


「ちょっと信じがたい話だけど本当に大変だったんだね。でも生きていてよかったね」


 あれ君達、大変な目というのを誤解していないですか? せいぜい、もうちょっとで襲われそうになったり、マ者に食べられそうになったり、お化けと戦ったりしたぐらいですよ。女性としてひどい目にあったわけじゃ……あ、服の上から胸は触られたか、本当に思い出したくもない記憶だ。


「赤葡萄酒、瓶でください!」


 ちょっとぐらい飲ませていただかないと立ち直れません。君達も責任とって飲みなさい。


「好きな人と一緒になりたいとか、頼られる人になりたいという皆さんの動機の方が私なんかよりよっぽど立派ですよ。では、皆々様、もう一度『乾杯』です」


 慌てて私の杯に合わせる二人。うん、君達もかわいい人だな。


「飲みましたか? ではもう一度です」


 白蓮やみんなはどうしているかな。私の事を忘れてないかな。できれば誕生日ぐらいは祝ってほしいな。なんか涙が出て来た。


「もう一回乾杯してください」


「赤娘、はしゃぎすぎだ」


「風華さん、大丈夫?」


「百夜ちゃん、これって大丈夫なの?」


「赤娘か? 寝かせておいてやれ。こやつも色々だからな。それよりお前達、これと同じものを頼め。我はまだ満足していないぞ」


「焼き鳥ね、了解」

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