魔法
「美亜、あんた意外と教官役が似合っているよ。どう、特別じゃなくて本格的にうちに移ったら?」
理朝が執務机の前で書類を見ていた美亜に声をかけた。だが美亜の反応はない。
「どうしたの? 室長とまた喧嘩でもした?」
室長という言葉に美亜が反応した。
「してません」
美亜がやっと書類から顔を上げて理朝の方をみた。
「理朝、これをどう見る?」
理朝が美亜から渡された書類に目を走らせた。
「思ったよりはまともだけど、やっぱりあのちょっと気持ち悪い子供以外は関門の向こうにさっさと返した方が良くないかい? あの子供にしても、素早さと投擲に探知の力があるのは認めるけどまだうちには早い」
理朝は書類をめくりながら先を続けた。
「それにこの赤毛のお嬢さんは一体何なの? マナも何も特に何も無し。なんで冒険者になんてなったんだろうね。気の迷いにしてもちょっとという感じだし。ただ体力と一部の技能はただの町娘よりは大分ましというところね。父親が冒険者だったんでしょう? 少しは鍛えたんじゃないの?」
「あなた、私が何処にいたか知っているでしょう?」
「はいはい、元査察官補佐殿」
「そんな記録や証言はどこにもないから、町娘の二か月目にしてはかなりましね」
「へぇ。頑張り屋さんではあるのね」
理朝がちょっとは見直したという顔をする。
「見てほしいのはそこじゃないの。最初の記録からこの十日弱ほどでの伸びよ」
「単純に、最初はやる気がなかっただけじゃないの?」
「あの子達にそんな余裕があったと思う?」
美亜は才雅と朋治の列を指さした。
「特に男の子達はすごく伸びている。まあ、最初がひどすぎたというのもあるかもしれないけど、普通はこれだけ周りと差があれば委縮してもっと悪化する方が普通だと思わない?」
「まあ、基準に合わない子には意図的にそうしているところもあるからね。ここは鍛える所じゃなくて選別するところだし」
「それに何、あの子達は? 二日目から別人みたいに変わった。小さいのは何も変わらないけど、後の3人はともて楽しそうにやっているのよ。おかしくない?」
理朝が少し考える表情になる。
「研修で他の人を見て何かコツを掴んで伸びるという器用な奴はいるよ。でもあれだけ組で楽しそうにやるやつはいないね。入れる数が限られている以上、基本お互いは競争相手だ」
理朝は、美亜の表情を見ながら言葉を続けた。
「まあ、特別枠で競争していない二人がいるからじゃない。男の子達は競争に入れてもいないし。若い子達だからそんなものじゃない。出来が悪い同士でなれ合っているんだよ」
「それなら成績がこんなに伸びたりはしない。あの赤毛の子は一体どんな魔法を使ったの?」
「魔法? 年頃の女の子というやつが年頃の男の子というやつに使えるやつじゃないの?」
理朝が美亜にちょっとだけ若い女性らしい表情を見せた。
「私達だってあの子達と大して年が違う訳じゃないのに。この仕事ってすごく年寄り扱いされている気分」
そう言うと美亜は肩をすくめて見せた。
「ここは経験と貢献が物を言うところだからしょうがない。おかげで家柄も性別も関係ない。でも私もその気分はよく分かるよ。時には私の一番上の兄より年齢が上の人に教官面しないといけないんだから」
「査察方だとすごく子供扱いされていたから、本当に真逆」
「室長の愚痴なら今度どこかの酒場で聞いてあげるよ?」
「結構です」
美亜が理朝から書類を奪った。
「意味がないからやらないつもりだったけど、うちの組にも対抗戦と全体実地訓練をやらせる。対抗戦はあなたの組を借りる。いい理朝?」
「私も少し興味が出てきた。いいよ。その魔法とやらを一緒に見てみようじゃない」




