同期
受講式というのは実にあっさりと終わった。
明日から本格的な研修に入るらしい。今日は早く戻って体を休めるように言われた。美亜さんは研修の相談があるのか、理朝さんと連れ立ってどこかに行ってしまった。
百夜は相変わらず眠そうにあくびをしている。お前は式の間、思いっきり船を漕いでいたよね。美亜さんの冷たい視線を受け止めるこちらの身にもなってみろ!
私はというと宿舎に戻ってさっさと休みたいのだが、そもそも出口が分からなくて誰か親切な人はいないだろうかと、周りをきょろきょろと見回していた。この中に親切な人が居なかったら、ちょっと恥ずかしいけど廊下に出て誰かに聞くしかない。
「あの、僕らは同じ組の……」
「初めまして、彩侯爵領から来た円・倫人と申します」
背の高い少し茶が入った金髪の青年が私に手を差し出した。うわ、家名持ちということはこの人貴族だ。その前に誰かが声をかけてきたような気がするけど気のせいかな?
「こっちは同じ結社出身の比沙美に海也に空也、それに実季です」
みんな私に手を出してくれた。うん、いい人達だな。あれ?
「私達は双子の兄弟で、多分、どっちがどっちかはすぐには分からないですよね?」
はい、全く分かりません。どちらも黒髪に黒目のちょっとかわいい感じの若い人です。
比沙美さんはちょっと背が低いほんわかした感じの人だ。といっても私も高くないからそんなに変わらないかな? ちょっと変わった短毛のつば無し帽子をかぶっている。
実季さんは、背はちょっと高めだけど美亜さんほどではない。この人もやっぱりすらりとしたいかにも機敏そうな感じの人だ。明るい茶色い髪を後ろで一つにまとめて背まで垂らしている。本来は童顔だと思うのだけど、立ち振る舞いからきりっとした感じに見える。
なんか追憶の森結社で見た人達とはちょっと違って、皆さんあか抜けていますね。やっぱり内地の人達は違います。
「こちらこそはじめまして。復興領から来た風華と申します。こっちは妹の百夜と申します」
「復興領というと、『追憶の森の結社』ですか? 本格的な所ですね。妹さんなんかはまだ小さいのにそこで冒険者になるとはすごいです。何か特別な力がおありなんですね」
あの、買い被りすぎです。多分結社に居たのは2~3刻(4~6時間)ぐらいで、それも寝てただけですから……。
「いえ、特に何も皆さんが思っているような力はありません。妹はちょっと探知が使えますけど」
ここで嘘をつくと後で大変な事になるので正直に話しておきます。
「でも城砦への所属をもう既に許可されたんですよね? 理朝教官にお聞きしました。皆さんは特別枠だって」
倫人さんが不思議そうな顔をしている。多分、特別の意味を間違えていると思います。特別に何かの力がある訳ではなくて、まあ親の七光りとでもいうんでしょうかね? 本当にたまたまです。できれば他に移してもらいたいと思っているんですが、ちょっといろいろと込み入った事情がありまして……。
「こちらには『組』のものと一緒に復興領から来ただけで本当にたまたまです。白蓮という居候の男に騙されてですね、冒険者になったのが運のつきといいますか……」
「白蓮さんですか?」
「なんでもありません。気にしないでください!」
いけません。思わず本音の愚痴が出る所だった。
「すでに許可されているというのはすごいですよ。だって僕らはこれからこの研修の結果しだいですから。でもどうして研修に参加されているんですかね?」
「何分、冒険者になりたても成り立ての者なので、研修ぐらい受けさせてもらわないとちょっと困ります」
「成り立てですか?」
「はい、まだ二月にはぜんぜん足りていないと思います」
あれ、皆さんお互いに顔を見合わせていますよね? だって研修に参加するんですから、皆さんも私と同じ駆け出しですよね?
「お前達、みんなつまらないな」
百夜!なんでお前はいつも余計な時に余計な事を言うんだ?
「つまらない?」
ちょっと困った顔の倫人さん。
「すいません。この子にはさっきのような式はまだ退屈みたいで……ほほほほほ」
「まあ、あの……では、一緒にがんばりましょう」
あれ? 皆さん行ってしまいましたね。すいませんね。うちのちびっ子が気分を害してしまいましたね。できればいかれる前にこの研修所からの出口を聞いておきたかったのですが……。
「あの、僕は朋治と言います。こっちは、」
「俺は、才雅というものだ、朋治と同じで、明男爵家領から来た。お前達なんか怪しいけど大丈夫なのか? 足を引っ張られると困るんだよな」
「才雅、いきなりそんな事言ったら悪いよ」
なんだこの子達は? ああ、前に並んでこちらをガン見していた人達ですね。まあいいです。出口を知っているのならそのでかい態度を特別に許してあげます。
「宿舎への出口ってどっちか分かります?」




