引継ぎ
多門さんはお昼もそこそこに、美亜さんという背の高い美人さんに私達をおしつけて、どこかに行ってしまいました。まあ、午前中に城砦をのぼったり、偉い人に会ったりしたから疲れたんでしょうね。分かります。私もできればこのまま宿舎に戻って寝たい気分です。
「で、貴方方は午前中、室長と何をしていたのか教えていただけますか?」
この方、口調は違いますけどやっぱりどこか歌月さんに似ている気がします。
「お前、おもかろいな? どこかであったか?」
お腹がいっぱいで眠そうな百夜が不意に美亜さんに話しかけた。
「おもかろい?」
お前は何で、余計な時に余計なことを言うんだ。
「この子の美人という意味です」
「お世辞は不要です。話がそれました。午前中の話です」
「午前中ですか? 多門さんと……」
「多門さん!?」
美亜さんが腰を浮かす。すいません、ついつい心の声で呼んでしまいました。なんでしたっけ『監督官様』でしたっけ?
「あ、すいません。監督官様が城砦を案内してくれました。受付と、備え方に……」
「『様』? まあいいです。備え方で何か頼みました?」
「はい、多……いえ監督官様が普段使いの装備一式を鹿斗さんに頼んでくれました」
「鹿斗工房長に直接頼んだんですか?」
あれ、組頭って言っていたと思うんですが……工房長なんですか?
「はい。すごい人です、一回りしただけで胸の大きさとか全部……」
「そこはどうでもいいです。その後は? まだ時間は十分あったでしょう?」
うう、とりつく島もない。とある場所で会ったある殿方を思い出します。
「城砦の事務方を見せていただきまして……」
「え!事務方に入ったんですか?」
美亜さんの腰が浮きかける。え……だって備え方の上ですよね。すぐそばですよね。
「はい、多……監督官様が何やら金属の薄片と書類を持っていて、それで入りました。そこで元同僚の柚安という方を紹介してくれました」
「柚安指揮官長と会ったんですか?」
「はい、少しだけお話させていただきました」
「話しできたんですか!? あの人と!?」
え、普通に話しましたけど。できればお暇な時のお話は遠慮させていただきたいと思っています。
「何か……」
「続きを話してください。引継ぎがありますから全部です」
美亜さん、お水がこぼれてますけど大丈夫ですか?
「その後、外階段を昇りまして物見方というところを紹介していただきました」
「物見方? もしかして一番上まで登ったんですか?」
そうですよね。あんな上まで登るなんて苦行は普通はしませんよね。
「はい、もう膝ががくがくで……」
「そこはどうでもいいです。続きを……」
「そこで柔悟さん……いえ副結社長を紹介していただきました」
「副結社長って遠見卿ですか?」
美亜さんがおどろいた顔をする。そうですよね。私も副結社長って紹介されてびっくりでした。
「はいお髭の方です。ゆっくりしていけって言われたんですがこの子のお腹すいてしまいまして、多門……監督官様にお昼をごちそうになって今に至るです」
「分かりました。どんだけ七光りなの」
あの美亜さん、心の声が漏れてますけど。
「私は、多門室長からあなた達の教育を任されました。任されたからには大人の方々みたいにあなた達を甘やかすつもりはありません。覚悟してついてきてください。分かりましたか?」
「はい」
美亜さん、なんか恨まれるような……。
もしかして、多門さん殴った事、根に持ってます?




