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左遷

「ありがとうございました」


 私達は遠見卿に別れを告げて物見方を出た。私としてはもう少しいて父が見ていたという風景を見て居たかったのですが、百夜が腹が減ったと言い始めたので、仕方なくお暇して城砦の外階段を下まで降りてきた次第です。


 多門さんが昼飯はおごってくれると言ったので、百夜なんかは走って降りていきましたけど、私にはとっても無理です。膝が思いっきり笑っています。これって、夏だったら汗だくだし冬に雪が降ったら外階段なんかは使えないですよね。


 まあ、そうそう来れる所とも思えませんので、一生の思い出として堪能させていただきました。だって、柔悟(じゅうご)さんが許可証を出してくれたから入れたんですよね。普通は入れないんですよね。でも階段は厳しいです。百夜じゃないですけど私もお腹が減りました。


「で、何が食べたいんだ?」


「腹が減った。うるさい奴、おもかろいものを一杯食わせろ」


「おもかろいもの?」


「この子にとってのおいしいものですね」


「とりあえず、一杯食えれば満足だろう?」


「よいぞ、よいぞ」


 やっぱり、百夜は無敵だ。この新嫌味男でも百夜相手には嫌味の一つも言えないでいる。


「早くしないとお前を食う」


 ちなみにこれは、まだ冗談かどうか不明なので早めに何か出した方がいいと思います。


「残りは商方(あきないがた)に、会計方、査察方に、監督方というところか? まあ、前の3つは、お前達はあまり関係が無いところだからさほど時間はかからない。今日じゃ無くてもいいだろう。午後は研修の相談を兼ねて監督方だ。小娘も呼んでやるか……」


「餌だ!」


 多門さん、やばいです。早く行きましょう。


* * *


 多門さんが連れてきてくれたのは少し、いやかなり高級な感じの店だった。要するに安い店は行列ができて居たり時間がかかったりするので、騒ぐ百夜に押し切られてすぐに注文が出来るこの店に入ったというところだ。


 世恋さんはたいしたことないと言っていましたが、いろいろお店が一杯あるじゃないですか? 一の街の田舎なんかよりよほど都会です。ただ道行く人は冒険者や事務員などの方がほとんどなので、関門みたいな鮮やかな色の服を着た人々とか派手さはぜんぜんないようです。


 良かったです。気後れしなくて済みます。おかげでちょっと高級なこの店でも浮くことなく座ってられるのはとてもありがたいことです。これで周りがすごくあか抜けた人達だったら、何を食べても味がしなかったと思います。


「好きなものを頼め」


 多門さんはそう言ってくれましたけど、これって、0の数何か間違っていませんか?


「あの~、百夜に片腕ぐらい食べられそうですけど、もっとお安い店に移動した方が……」


「小娘のくせに大人に気を使うな。それにここは基本的になんでも高いところだ。すべて関門を超えて運んでくるんだからな」


 白蓮、私達はやっぱりとんでもないところに来たみたいです。絶対にしばく!必ずしばいてやる!!覚悟しろよ、は~く~れ~ん!!そう言えばあいつはどこで何をやっているんだ?


「どれが一番多い?」


 百夜の問いかけに多門さんが注文票をちらりと見た。


「これだな。これでいいのか? 小娘はどうする?」


「私は、監督官様と同じで……」


「『様』をつけるな。恥ずかしい」


 なんだろう。一の街でもこんなお店に行くことはなかったな。さっきの城砦のてっぺんに登れたのといい、今までの不幸分を神様が多少色をつけて返してきてくれているのかな?


「研修というのは、白蓮とは一緒ではないのでしょうか?」


「彼氏か?」


「違います!居候です!」


「どちらでも俺にとってはいい話だが、奴は旋風卿ともども査察室、おれが首になったところの預かりだよ。奴らは森に入っているから色々聞き取りもあるだろうしな。いずれにせよ俺の監督下ではないよ。そもそも……」


 話が長くなりそうなところで料理が運ばれてきた。なんて素晴らしい。


「監督官様、料理が来たみたいなのでいただきましょう!」


「様をつけるな」


 良かった話が途切れたぞ。それに百夜にも食べられずに済む。というか、この肉の塊あんた食べられるの? これって周りは焼けているけどほとんど生肉じゃないの? 炒めたいんげんとか人参とか添えられては居ますけどね……。


「おーーーー、おもかろいぞ!!」


 待って、私のも量は違うけど似たような奴が来た。この鉄板の上の赤いのは血ですよね。ちゃんと血抜きしています?


「塩と香辛料をかけた方がうまいぞ」


 多門さんが、百夜に塩と香辛料を振ってやっている。意外と世話好きなところもあるのかな?


「おーーーー、おもかろい!赤娘、食べないなら我が食べる」


 ちょっと待て。お前、自分の分もまだ食べてないだろう。お前に食べられるぐらいなら私が食べる。


「なにこれ、めちゃくちゃおいしい。肉の臭みもない」


 にんにくと生姜かな? 下味もしっかりつけている。


「それは良かったな」


 しまった心の声が漏れてしまった。でも意外と優しい反応。この人は嫌味以外も言えるんですね。多門さんが私の肉にも香辛料と塩を振ってくれる。やればちゃんとできるじゃないですか。


「監督官は……」


「聞きたいか?」


 謎の微笑を浮かべる多門さん。これって貴賓室の時と同じ奴だ。またやってしまった。


「いえ、またの機会に……」 


 多門さんが、私に顔を近づける。


「監督官というのは本来は上で説明した狩手組とか毎にいて、冒険者達の管理をする役だ。それなりに大事な役さ。だが俺は『特別監督官』とかで研修組、つまりお前たちのような駆け出しを管理するところの員数外の監督官。つまりお前達専任の監督官だ。どんだけの左遷かお前達に分かるか?」


 近いです、近いですよ多門さん。


「室長、遅くなりました。引っ越し作業で……」


「遅いぞ小娘」


 あれ、あの背が高い美人さんだ。料理を頂いている私達を見て固まっています。


「午後は、お前がこいつらの世話役だ。お前も何か頼め」 


 いいんですか多門さん、席を引いてあげるとかしなくて?


 左遷の話なんかより、よほど大事な事ですよ。

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