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 その部屋は頂上の真下にあった。


 頂上に近い外手すりのところに遠眼鏡を手にした人達が何人も立っている。その背後は贅沢な事に透明で大きな硝子をはめた窓の作りになっていた。


 ここの結社が金回りがいいというのは本当なんだろう。私達はその硝子の横から階段を下がったところにあった戸口に向かった。


 多門さんが、さっきと同じようにのぞき窓から金属の薄片と書類を差し出すと、がちゃりと音を立てて戸が開いた。警護の人らしい屈強な男の人の脇を通って再び上ると、そこは周囲全部を見渡すことが出来る、すごく見晴らしのいい部屋だった。


 さっき外に居た人達が硝子の向こうに見えて、その先には城砦を囲む二つの山、東にある関門の壁や、そこを蟻のように動いている高馬車も見える。西は先ほど外で見た黒い森と川だ。雲の影が森の上をゆっくりと移動していくのが分かる。


 世の王様とかお姫様は、お城のてっぺんからこのような光景を日々見ているのだろうか? でも毎日これを上り下りしていたら大変すぎる。


「ここが物見方だ。城砦の『目』だよ」


 外が見える硝子にそって執務机と人が丸く配置されている。真ん中にはさっき事務方と呼ばれていたところで見たような大きな地図が台の上に置いてあった。その後ろには先ほど事務方で見た金属の管が何本もあって、何人かの人がそこに耳をあてている。


「おやおや、ここには珍しいお客さんだね」


 台を覗いていた、大分白髪が混じったりっぱな髭をはやしたおじさんがこちらを見ていた。


「遠見卿、お邪魔させて頂いています」


 この人も二つ名持ちなんだ。だからかな、多門さんの対応が下とは違って丁寧だ。


「もしかして、そこの赤毛のお嬢さんは山さんの娘さんではないかな? もしそうなら、ぜひ紹介してもらいたいのだが?」


「先ほどの赤玉は大丈夫なのでしょうか?」


「ああ、すぐに黄色になったからおそらく見間違いだろう。探索方も最近は神経質でね。困ったもんだ。報告というのは間違いのない奴を一回で送ってもらいたいものだよ」


 そう多門さんに告げると、お髭のおじさんは、台を離れて私達のところまでやってきた。


「はじめましてお嬢さん。私は柔悟(じゅうご)というもので、遠見卿の二つ名で通っているものだ。名前は当て字でね。もともとは『高の国』の人間だ」


 そう言うと、彼は私に右手を差し出した。


「こちらこそ初めまして。山櫂の娘で風華と申します。こちらは妹の百夜です」


「おや、妹さんもいたとは知らなかった」


「はい、百夜は私と血はつながっていませんが、私の妹です」


 全部、妹で通すから君はもう少し私の言う事を聞きなさい。


「こんなに早くお嬢さん達に会えるとは嬉しいね。多門君、ちゃんとあちこち回らないと文句が出るよ」


「だからですか、この通行証なんてものが出されているのは? 普通は出ませんよね?」


 多門さんが、さっきから扉の所で差し出していた書類を手に持ってふりふりしている。


「そうとも。だから私が署名したんだ。おじさん達はうるさいぞ。それとも君の所に押しかけて行ってもいいのかい?」


「勘弁してください、副結社長」


 副結社長? この人とっても偉い人なんだ。


「風華さん、そんなにかしこまらないでもらいたいな。私は二つ名なんてもんをもらっているが、大して森に潜ったわけじゃない。ずっとここから森で何が起きているかを見ていただけだ。だから君のお父さんがどれだけみんなを助けたかも良く分かっている」


 彼は片眼鏡を外すと何かを探すかのように私の目をじっと見た。すいません。父の面影を探してもどこにもないと思います。


「最近知りました。私は父とは血がつながっていないんです。ですからどこか似たとことかは……」


「ああ、それは聞いているよ。それをあの無骨者の前で啖呵切ったんだって。みんな酒がうまいと言って大盛り上がりさ。僕はね、そういうのは血が言わせるんじゃないと思うよ。心構えだよ。君の目はお父さんの目とそっくりだ。色とか形じゃない。風華さん、間違いなく君の目と心臓は山櫂さんにそっくりだ」


 多門さんが私に手巾を渡してくれた。これって二度目だ。


「遠見卿。うちのもんを泣かせないでください」


「ああ、悪かったねお嬢さん。どうも年をとると湿っぽくなっていけない。どうかゆっくりとこの景色を見て行ってくれ給え。私達が、君のお父さんが見た景色だ」

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