見学
残念ながら昨日の夜は歌月さんと世恋さんに止められたせいで、白蓮をとっちめることが出来なかった。首を洗って待っていろ白蓮。この件は決して水に流したりはしないぞ。
ただ世恋さんが貸し切りにしてくれていたのは本当に助かりました。もう少しで男湯まで裸で突撃するところだった。他の人が居たらなんて考えたらとても恐ろしい。
白蓮には私が二人に止められている間に宿舎へと逃げ切られてしまった。当然ながら私と白蓮の宿舎は別で男性用だから、そこまで乗り込んで成敗するわけにはいかない。
そういえば、百夜が『毛深い』とか言っていたような。そんなこと言ったら泣いちゃいますよ。本当に泣いちゃいます。そんな手入れする暇なんて、今まであったと思います?
生きているだけで奇跡みたいなものじゃないですか? あなただって、もうちょっと大きくなったら少しはこの悩みと恥ずかしさが分かると思います。女になってから出直してきなさい。
でも歌月さんと世恋さんはそうでもなかったな。あの人達はいつのまに手入れしていたんだろ? やっぱり二人には色々負けているような気がする。
「おい、俺の話を聞いているのか?」
新嫌味男が私をにらむ。あ、すいません。昨日色々ありまして別な世界へと行っていました。
「かっこだけすれば冒険者になれるわけではないんだぞ!ちゃんと説明を聞け、小娘ども」
とりあえず反省の体を取り繕う。ここには私と百夜ちゃんだけが呼び出されていた。白蓮はどうやら旋風卿に預けられているらしい。ようはこの男がめんどくさがったということだろう。
そう言えば一つだけ良いことがありました。関門の結社と隊商に預けていた私達の荷物はすべて戻って来ました。すごいことに何もちょろまかされておりません。
おかげで大外套や上着、細履きなどはすべて森にいたものがそろっています。しかも一部はちゃんとお洗濯されていました(下着は、ちょっとやめておいてもらいたかったんですけど……)。全部一から揃えなくてはいけないと思っていたので、お金がない私達にとっては非常に、非常にありがたいことです。
目の前の多門監督官様が大きくため息をつく。
「前にも言った通り、ここは駆け出しが来るところじゃない。冒険者になって田舎の出先じゃないまともな結社で何年か冒険者をして、組頭くらいは務めた奴が来るところだ。それでもここにきたら新人扱いで、みっちりと研修を受けさせられてやっと森に入れる。そういうところだ。分かってんのか小娘ども」
何に腹をたてているのか分からないが机をばんばんと叩く新嫌味男。こっちだってできれば逃げ出して、その田舎の出先辺りで上納とか言うのを払って終わりにしたいんです。
「お前、うるさい奴だな……」
慌てて百夜の口をふさぐ。
「今、この子供が何か言ったか?」
「いえ、いえなんでもありません。妹はちょっと特殊でして……」
これ以上機嫌を悪くして本当に叩き出されると路頭に迷う。
「おい、赤娘。我はもう腹が減ったぞ」
「あんた、昨日あれだけ食べてもう腹が減っているの?」
「お前は馬鹿か? 昨日の餌は今日の餌にはならんぞ」
「いい加減にしろ。なんで俺がこいつらの面倒をみないといけないんだ。これよりひどい懲罰があるか?」
多門監督官様が額に手をやって何やら難しい顔をしている。いかん、これは明らかに機嫌が悪化している。
「あんたのせいで、監督官様の機嫌が悪くなったじゃない。謝るとか……」
「監督官に『様』をつけるな。その程度は常識だ。もういい。口を開くな小娘ども。今日はここの見学だ。迷子になったらそのまま置いていくからな」




