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城砦

 結社の手配した馬車は軽やかな音を立てて丘の間を進んでいく。


 私が城砦に着いたと思ったのは勘違いで、あそこは単に関門を下りて来た隊商たちの検問所のような場所だったらしい。結社の馬車は上等なばねを着けているらしく快適な乗り心地をしている。一の街で私が乗っていたような荷馬車や駅馬車などとは全く別物だ。


 私の前には不機嫌そうなにやけ男、もとい「多門」という名前の男が座っている。馬車の中には私と百夜だけだ。白蓮はあの深赤色の髪をした女性と共に御者台にいる。何でだ? もしかしてああいう背の高いすらりとした女性が好みだったりする?


 旋風卿と世恋さん、歌月さんは馬で先に行ってしまった。皆さんは報告とか色々とやらねばならぬ事があるらしい。そういえば旋風卿は査察官で、世恋さんは査察官補佐、歌月さんは監督官と言っていたから、皆さんはお仕事が一杯待っているんでしょうね。


 終わったら食事にしましょうと世恋さんが言っていたから、今からもう待ち遠しくてたまらない。今度は下女役はしなくてもいいですよね? 素で食べられますよね?


 ただ、この重た~~い空気はなんとかしてほしい。百夜は私の横で相変わらず居眠りだ。目の前の男は私が捕まっていたときにはべらべらしゃべっていたけど、今は何もしゃべらない。それと向かい合わせに黙って座らせられている身にもなって欲しい。


「見えて来たな」


 目の前の男がやっと口を開いた。


「あれが、城砦だ」


 男が馬車の窓の覆いを開けた。丘の上を走る馬車の窓から、朝の陽ざしを受けた塔のようなものが見える。何だろうあれは。私が見慣れた塔がはるか下にあるのだから、それはとても、とても高い建物だった。ただ『城砦』という名前から私が想像していたものとは全く違う。


 私は一の街のような街か領主館を大きくした城の様なものを想像していた。三角形に切った小麦粉をまるめて建てたような形の塔。それはまるで何かの神殿のような建物だった。深い渓谷の間に刺さった一本の棘の様にも見える。


 その塔を中心に街が広がりその周りを城壁が囲んでいる。城壁の周りにはいくつか集落も見えた。


「あれは、もともとは本物の城砦の物見の塔かなんかだったやつだ。ここからはまだ見えないが、本物の城砦は渓谷を出た左手にその廃墟がある」


「廃墟ですか?」


「そうだ。白の竜によって兵たちは灰にされ、赤の竜によって黒い硝子の塊にされた廃墟だ。灰にされた兵のおばけがでるそうだから興味本位で近づいたりしない方がいいな」


 ご安心ください。お化けが出るなら絶対近寄りません。せっかく口を開いてくれたのだから気になることを聞いてしまおう。


「あの~~、私達はこの後どうなるんでしょうか?」


「いきなり無罪放免になるわけないだろう。俺預かりで謹慎というところだ。勝手にどこかにふらふら行ったりするなよ」


 行きません。行く宛てがありません。


「住むところとか食事とかはどうなりますでしょうか?」


 私達、ほぼ無一文で荷物も全部どこかに行ってしまった状態なのでこのまま放りだされると本当に困るんです。


「謹慎中はこちらで手配する。何か。お前は偉そうにおれに要望でも言うつもりか?」


 いえいえ、とんでもありません。出していただけるのであれば何も文句をつけるつもりはありません。とりあえず愛想笑いです。


「にやにや気持ちが悪い奴だな」


 お前!せっかくこっちが愛想笑いしてやったのに気持ち悪いだと!


 分かりました。分かっちゃいました。口調は違うけどこの人、旋風卿と同類だ。嫌味を言わないと息を吸えない人なんだ。でも機嫌を損ねると住むところと食べ物が無くなるかもしれない。今は我慢です。


「すいません。こういうところに慣れていなくて」


 男がさも胡散臭そうに私を見る。


「そもそも、お前はなんで冒険者になんてなったんだ? 向いているとでも思ったか? しかも城砦に来るなんておかしくないか? ここは駆け出しがいきなり来るところじゃない」


 そうですね。何でなったんでしょうね? 白蓮に騙されたというのが本当のところですね。そういえば何で城砦に来ることになったんですかね? 父が暮らしていたと言うのと、旋風卿に巻き込まれたというのが真相でしょうか?


「そうですね、何ででしょうね? 一の街を逃げ出すことしか考えていませんでした」


 思わず本音が口から出てしまった。


「おいおい、どうやったら街を逃げだそうと思っただけで冒険者なんてものになって、この城砦くんだりまで来ることになるんだ? おかげでこちらは大迷惑だ」


 とりあえず頭をかいて笑ってごまかすことにする。白蓮と同じことをやっているな。


「彼氏に騙されるにしてもほどがある」


 ちょっと待て。まだそこまでいっていないぞ。というかあいつは私に何も言ってこない上にあの美人と上の御者台に座っているやつだ。


「彼氏ではありません!()です!」


 目の前の男がびっくりした顔になる。しまった、ついやってしまった。


「まあいい。俺には関係のない話だ。『追憶の森』の結社の冒険者、風華殿。『城砦』にようこそ。君がここでも良き狩手であらんことを」


 そう言った男が真面目な顔で右手を差し出した。


 父さん、私はどうやらあなたのかっての職場に()としてやっと着くことが出来ました。白蓮も一緒です。どうかこれからも高いところから私達を見守っていてください。


 だけど、私が養女だということは、生きているうちにちゃんと言っておいてくださいね!

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