多門
なんで今日は大声上げて泣く奴ばっかりなんだ。
鬱陶しいことこの上ない。この娘に殴られた左頬も痛む。なんて厄日なんだ。
だが小娘、お前の勇気は認めてやる。この連中を前に土下座してお願いした挙句に、自分が偽物だと言える奴なんてそうはいない。お前はすごい奴だよ。その辺の二つ名持ちなんかよりよほどすごい奴だ。
あんたを見てるとなぜか死んだ美空の事を思いだす。あいつもそういう強さを持つやつだった。男の趣味がどうかと思えるとこまでそっくりだ。
「多門、さっきも言ったが裁定官はなしだ。それに査察官も辞めてもらう」
爺さんが俺に告げた。はいはい、首になった十人委員会の手先を務めた男も首って事ですね。
「俺はいいですけど。二人に何か罪を問うのであれば話は別です」
美亜はなりはだいぶ大きくなったが中身はまだ子供だ。こんな奴を森に送ったらすぐ死んじまう。俺はどうでもいいがこいつの面倒を見る口実はなにか作らないといけない。
「多門。お前のことは少しは分かっているつもりだ。田舎の結社で起きた件もな」
あんた達にとってはよくある話でしょう?
「森が裁いてくれただろう」
さっきの小娘同様に私も慰めてくれるつもりですか? 奴らが勝手に森で死んだからそれで許せとでも? ふざけるんじゃない!
「私はね、私の手であいつらを裁きたかったんですよ!」
そのための査察官で、そのための裁定官だ。あんた達の横やりのおかげですべてご破算ですけどね。
「多門、お前もお嬢と同じだ。過去に引きこもっているんじゃない。少しは前を向け。そんな奴らを無くせ。そして入れるな」
あんたは何を言っているんだ?
「多門、お前には監督官を命じる。これは結社長にもすでに通してある話だ。このお嬢さんをそのまま森に放りこめるか? お前が面倒を見ろ」
あんた達は俺まで泣かすつもりでここに来たのか?
「あの子が捕まっているというのは俺への匿名の私信だ。理由は分からないがあの子が何かに巻き込まれているのは確かだ。十人委員会の動きだって慎重な連中にしては性急すぎる」
確かに、あれだけすぐに10人揃ってやがったのは異例な話だ。
「その手の話はお前の得意分野だろう。守れなかった何かを悔やむのは終わりにしろ。今度はあの子を守ってやれ」
そういう事なら、確かに俺の得意分野だ。
美空、俺は今度こそ美亜や他の誰かを守ってやることが出来るだろうか?
いや、やるんだな。あの娘が言った通りだ。




