告白
「お願いがあります」
私は瓦礫だらけの床に頭をこすりつけた。私の身が自由になっただけだ。まだ終わったわけじゃない。みんなを助けるんだ。
「私の『組』の仲間が捕まっています。旋風卿ことアルマインさん、その妹の世恋さん、復興領の監督官の歌月さん、私の妹のような子供の百夜。うちの居候の白蓮です」
私は居並ぶ人たちに向かって顔を上げた。瓦礫で額をきったのかもしれない。血が目に染みる。でもそんな事を気にしている暇はない。
「どうか、みんなを、みんなを救ってください。お願いします」
私はもう一度床に頭をこすりつけた。
「どうか……みんなを……」
誰かが私の手をとった。穿岩卿と呼ばれていた初老の人だった。そして誰かが私の額に手巾をあてた。さっき私が殴った男だった。
「お嬢さん。俺は明翠というものだ。穿岩卿という二つ名で通っている冒険者だ。お嬢さん名前は?」
「風華と言います」
この名前も私の本当の名前ではないのかもしれない。
「風華さん。何か思いつめられているようだけど、あんたは何も心配することはないし、俺たちに恩に着る事も何もない」
私が恩に着る事もないというのはどういう意味だろう? 私が山櫂の娘だから助けてくれたのではないの? だから私は他のみんなも助けてくれとお願いしているのに?
「この件については、月令からここの主だったやつに私信が届いている。追憶の森の件についてだ。あんた達が来る前から俺たちの間では既にどうするか結論がでていた話だ。十人委員会がなんと言おうが追憶の森から来るあんた達を助けるってね。ぐたぐた言うのなら土竜連中の方を切るって」
明翠さんはそこで部屋の隅でしゃくりあげている女性を一瞥して話を続けた。
「もっとも、そこのお嬢みたいに納得していないやつがいたのも確かだが、お嬢は月令の私信を見てなかったからな」
「だから追憶の森の結社からきたあんたの『組』の仲間を助けるのも、俺達の間では既に決まっていたことだ。あんたが山さんの娘だからって決まった事じゃない。だからお嬢さんは何も俺たちに恩を感じる事などない」
そう言うと彼は天井を指さした。
「恩を示したいならあの世にいる月令にこそ捧げてくれ。月令と俺は以前は同じ組でね。あいつは変わり者だったがいいやつだった」
「月令様は変り者なんかんじゃない。あんたと一緒にしないで!」
「分かったよお嬢。勘弁してくれ。俺が悪かった」
そう女性に謝ると明翠さんは頭をかいた。
「それにお嬢さんは『組』の仲間として歌月の嬢ちゃんと一緒にここまで来てくれた。十分その恩に報いているのではないかな?」
それは間違いです。私が歌月さんに一杯お世話になっただけです。
「お嬢さんには想像もつかないだろうが、俺たちだって若かった時はあるのさ。話がそれたな、山さんの娘が一枚噛んでいるって話で盛り上がったのは確かだけどな」
彼はそう言うと私ににっこりと微笑んで見せた。この人の若い時というのは想像できないけど茶目っ気のある人だったのかもしれない。
「何もまだしてないさ。皆さん良く寝ているよ。あんたは記憶力ってやつがないのか? 俺が一番最初はあんただって言っただろうが?」
私の額を抑えているにやけ男が私に告げた。この一言多い男は、もしかして私にもう一度殴られたいのだろうか? ともかくみんなが無事でよかった。そしてみんなが無事で助かるのであれば何も話をややこしくする必要はない。
「皆さんにお伝えすることがあります」
居並ぶおじさんたちが、横にいるにやけ男が私を注目する。足が震えそうになる。でも今言わないと、私はこれから一生誰かの振りを続けることになる。
「私は山櫂の娘ではありません。その偽物です。本物は新緑色の目に深緑の髪の子です」
おじさんたちは私の顔をじっと見て、次にお互いに顔を見合わせた。言ってしまった。これで私は何もない、ただの正体不明の町娘だ。白蓮の他は、百夜ぐらいは私の友達でいてくれるかな?
「お嬢さん? お嬢さんが何で自分を偽物と言うのか正直よく分からないが……」
私はよく分かっています。
「月令の私信に山櫂さんから月令にあてた私信の写しがあった」
父が月令さんに?
「そこに書いてあったよ。『赤毛のうちの娘を頼む』って、それはどう考えてもあんたのことだと思うんだけどね。違うのかな?」
「私は、私は父の本当の娘ではないんです」
ここまで来たのだ。すべてはっきりさせないといけない。だけど居並ぶおじさんたちの当惑した顔は全く変わらない。
何で?
「お嬢さん。ここはね、突然いなくなる奴だって一杯いるんだ。誰だってそんなことは望んでないけどね。だから誰かが誰かの親に突然なることだって一杯あるんだよ。お嬢だって月令が親代わりだった。だから山があんたを娘というのであれば、それは誰にとってもあんたは山櫂の娘なんだ」
部屋に泣き声がふたたび響いている。父親にだだをこねる子供のような泣き声。
でも今度の泣き声は私の泣き声だった。




