姉妹
『何が無事に戻れたものが居てよかっただ。寝ぼけているのか? 美談みたいに語るんじゃない!』
俺は森から出て来た馬鹿どもをにらみつけた。固く握った手に爪が食い込むのが分かる。
『こいつらが何をしたのか分かっているのか? 決められた領域を勝手に超えて「崩れ」を起こしやがったやつらだぞ』
なぜ、お前たちは俺をなだめようとしているんだ? お前ら本当に脳みそはついているのか?
『こいつらがやったことは殺人なんだ。分かっているのか? こいつらは美空を殺したやつらなんだ』
俺は地面に横たわったやつの胸倉をつかんだ。
『覚悟しておけ。お前達はおれが明日、規則に従って全員つるしてやる』
なぜ、おれをこいつらから引き離そうとする。さっさとこいつらを獄につなげ。
『なぜ、こいつらを吊るさない』
お前たちは裁定官だろ。なぜ規則を無視する。なぜ規則を破った奴を裁かない。
『美空の死が無駄になる? ふざけるな!』
「室長!室長!!起きてください」
小娘の声だ。俺はいつの間に寝てしまったんだ?
「上から連絡がありました。もうそろそろ荷が到着するはずです。しっかりしてください」
しっかりだと? 分かっているのか? お前がへましたから追加料金まで払う事になったんじゃないか?
多門は背伸びすると関門の壁を見上げた。関門の壁にまるで蟻がたかっているかのように黒い点が列を作っている。
「最初の便にしただろうな?」
こいつのやることは、全部確認しておかないと危険極まりない。
「はい。上からも先頭で出したと連絡が入っています」
「後ろは開けさせたか?」
わざわざ他のやつらの目の前でやる必要もない。
「はい、適当な理由で後ろはすぐには出さないように言ってあります。あれですよ。あの先頭の高馬車が三台の隊」
小娘が壁の大分下の方を下ってきている黒い豆粒を指さした。今回は順調に物事が進んでいるらしい。全てはこうあるべきだ。
多門は日差しを手で避けて、その点を指さす娘を見た。姉にそっくりになってきたな。背丈こそ違うが、きっと髪を腰まで伸ばせば後ろ姿なんかは瓜二つだろう。
中身は……どうだろうか? あいつはあいつで、こいつはこいつだ。
なんで俺は冒険者なんてやっかいなものに足を突っ込んでしまったんだろう。こんなやっかいごとにまきこまれたのを、あいつとそれぞれお互いのせいにしていたが、結局はどちらのせいだったのか未だによく分からない。
そのうえこの小娘まで冒険者になるなんて言うとは夢にも思わなかった。ありとあらゆる手段で阻止しようとしたが無駄だった。頑固者であるところは間違いなくこいつも姉と同じだ。
「美亜。今度はしくじるなよ。それと間違っても全力をぶち込んだりするな」
小娘が驚いた顔をする。俺がお前を名前で呼ぶのがそんなに驚くことか?
「はい、室長!」
それにお前は何をそんなに喜んでいる?




