お礼
「本当にお世話になりました」
日が昇る前の街には薄く朝もやがかかっていた。朝の冷え込みは大分厳しくなってきている。吐く息が白くなりはじめるのもそう遠くはないはずだ。私達3人は診療所の前で弥勒さんと三春さんにお礼を言っていた。
「ごちそう、おもろかったぞ」
百夜ちゃんが弥勒先生に告げた。良かったね。まずかったらきっと暴れていたもんね。この子は昨日一日で弥勒先生にだいぶなついたようだ。この子を手なずけるとは弥勒先生は意外と家庭向きなのかもしれない。
「本当に気をつけて行ってくださいね。この街に来ることがあったら、是非また寄ってらしてください」
そう言って三春さんが私にお弁当を渡してくれた。本当にいい人だ。きっと母親ってこんな感じなんだろうな?
「ああ、絶対に寄ってほしい。それまでに一度内地の医学院に行って調べ物をしておく。治療まではいかないかもしれないが、何かしてあげられることがあると思う。必ずだよ」
弥勒先生が百夜ちゃんの頭をなでながら私達に訴えた。
「よいぞ。今度も我が勝つ」
君は昨日どれだけ先生と遊戯をしていたの?
「本当なら今すぐ休みにして内地まで行きたいぐらいなんだがな」
「先生だめですよ。私も野営地までついて行ってあげたいところですが、今日はお休みではないですからね」
弥勒先生が、さも残念そうな顔をして三春さんを見る。
「みんなもっと健康に気をつけてくれれば、医者なんかいらないんだけど」
自分の職業を自分で否定するような台詞を吐いている。弥勒先生は本当に変わったお医者さんだ。この人達ともっとお話ししていたいけど、私達にはやることがある。全てが終わったらまたお礼に伺います。
私達は後ろ髪を引かれる思いで診療所を後にすると、各国の隊商たちが集まるという野営地をめざした。
私達だけでも多分たどり着けるはず。白蓮の手には弥勒先生からもらった地図(「ちょっと古いよ」とは言っていたけど)がある。でもさっきから地図をじっと見ているけど……大丈夫だよね白蓮!
* * *
弥勒さん、本業を忘れていませんか?
忘れていないよ乳母殿。むしろ完璧じゃないかな?
副業もすごいよ。これは何かのうろこみたいな感じだな。どこかで見たことがあるような気がするのだけど……ここの文献にはない。ああ、内地の医学院に飛んで戻りたいところだ。
それにね、あの赤毛の子にだけはお礼もしたかったのだよ。彼女の墓を建ててくれたのは、多分あの子だからね。




