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偽物

「胸が大きく、お尻が大きい人」


 角庵さんの問いに白蓮が即答した。


「驚いたな、大当たりだ」


 それって、歌月さんそのものじゃない!!それに白蓮、なんでそんなこと知っているの!?


「酔った時の山さんの口癖は?」


「俺だって若いときはもてたんだ」


 あの〇〇親父!白蓮に何を自慢してんだ。


「山さんが女を口説くときの決まり文句は?」


「お嬢さん、今日は月が……」


 あーーーー、もう聞いてられない。あなた達ちょっと店の裏手まで来なさい。娘の前で聞いていい話と悪い話があるでしょう? 後で私が娘だと分かったらどうするんですか? 笑ってごまかしますか?


「どうやら本当に弟子みたいだな」


 ちょっと角庵さん、こんなことで弟子かどうか分かるんですか? こんなの酒場で酒を一緒に飲んだら分かるんじゃないですか? もっと、ほら、聞くことあるでしょう? マ者の狩り方とか、葉っぱの取り方とか?


「でも店に入って来た時の面構えを見る限りでは、山さんの昔話をしに立ち寄ったという感じじゃなかったけどな」


「ばればれですか? やっぱり僕はまだまだですね」


「そこのお嬢さんも、ずいぶんと思いつめた表情をしていたしね」


 角庵さんが私をちらりと見る。すいません、私はまだ初心者なんです。


「ばれずに城砦に行く方法を知っていたら教えていただけませんでしょうか?」


 白蓮が真剣な表情をして切り出した。


「おいおい。ずいぶん前に引退した冒険者崩れに聞くにはちょっと微妙な話だな」


 角庵さんの表情も、さっきのおどけた感じとは違ってきた。


「はい。いま『追憶の森の結社』はやばいんです。ここに来た時に、『組』のものが捕まりました。どうも誰かが、追憶の森の結社そのものを無かったことにしたいらしいです。長の月令さんもなくなって、一緒にきた娘の歌月さんもここで捕まりました」


「月令って、あの『旋風卿』か? あの男も死んだのか?」


「生き残るには、城砦に行って上に直談判するしかないと思うんです。少なくとも事が公にできれば時間が稼げるはずです。だけど正面からいけば僕らも捕まります。裏から行くしかないんです」


 白蓮は一気にまくしたてた。


「久しぶりにマナ除けの匂いを嗅いだな。そこのお嬢さんからもするから、あんた達二人は追憶の森の冒険者ということか」


 白蓮の話を聞いた角庵さんが、酒場の天井をじっと見つめた。


「もし裏が手を回しているとなると、直接に城砦に行くのは無理だな」


 角庵さんは私達に視線を戻すとそう告げた。


「ただしそれは冒険者としてはという意味だ。各国からきている隊商に紛れ込めれば入れる」


 白蓮の顔に安どの色が浮かぶ。きっと私も同じ表情をしているに違いない。


「毎日荷がついて運ばれるからな、結社も隊商一人一人の身元の確認なんかしない。ただ、ばれたら二度と城砦へは荷が卸せなくなるから、それをやるやつらが居ないというだけだ。お前たちは隊商の一人として入って、冒険者として城砦の門を叩けばいい。ただし、」


 そこまで告げると彼は白蓮の顔を覗き込んだ。 


「さっきも言った通り、隊商としてはそれだけのやばい橋を渡るだけの利益が無ければやる意味がない?」


「山さんの遺産です。黒の帝国時代の一品物が多数あります。それと引き換えではどうでしょうか?」


「おいおい、山さんの遺品かっぱらってきたのか? あの人結構武器集めるの好きだったからな」


 大丈夫ですよ。娘の私が喜んで許可します。三人の命のお代だったら安いものです。


「山さんと八百屋の奥さんの娘はどうした?」


 来たな。切り札ですよ、白蓮。


「奥さんは亡くなったと聞いているが、あの奥さんそっくりの、きれいな新緑色の目と深緑色の髪の女の子はどうした?」


 新緑の目? 深緑色の髪?


「赤子の時しか見てないけど、今はきっと奥さんそっくりの娘さんになっただろうな」


 角庵さんが器を片手に目を細めて言った。固まっていた白蓮だったが、


「もう商家に嫁がれました」


 と彼に語った。え!? 白蓮、ここで話を合わせるの?


「まあ、あの子にはあっても意味がないものか……」


「どの隊商なら私達を引き受けて……」


「城砦にいったら、「穿岩卿」を山さんの弟子と言って尋ねるといい。悪いようにはしないはずだ」


「穿岩卿?」


「最強のつぶて使いだよ。そもそもあれをつぶてと呼ぶかという話だ」


「……」


 この後の話は、私の耳には何も入ってこなかった。


 『新緑』『深緑』、『薄茶』『赤毛』、『新緑』『深緑』、『薄茶』『赤毛』


 器に残っていた琥珀色の液体をすべて口に注いだ。


 私は一体誰なんだ? 

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