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可及速やか

「すいません。見失いました」


 荒い息をした短髪女が俺に向かって頭を下げた。


「おいおい……」


「よく分かりませんが、こちらの動きが全部読まれていた様です。それに土地勘もあるようでした。事前情報と大分違います」


 一体どういう事だ? 先触れの報告では大した奴らじゃないはずだぞ? まあこの用心深い奴の事だ。自分が捕まった場合の対応を、事細かに指示でもしていたか?


「あら、誰の差し金かしら?」


 この小娘がどじで、足をひっぱりまくったからに決まっているだろうが。


「まあいい。そちらは追加料金でなんとかする。それよりこの男を起こせ。まだまだ言い足りないことが山ほどあるんだ」


 あの程度で眠られてしまったら、あれだけ書類を書いた努力に全然見合わないだろうが?


「起きませんよ?」


 お前は何を言っている?


「だって、室長が簡単には目を覚まさないように全力をぶちこめって言ったじゃないですか?」


「言った。妹は絶対に目を覚まさないように全力をぶち込めと言った。だが、この男は体の自由だけ奪えっていったのを聞いてなかったのか?」


「聞いてません!絶対に聞いてません!!」


 だからどんなに力があっても、お前を森に行かせる訳にはいかないんだ。お前に何かあったら、俺はお前の姉に遠いところでもう一度殺される。間違いなく殺される。いやこの世でも取り殺される。


「どれだけかかるんだ?」


「うーんどうでしょうね? 本気の全力をぶち込みましたから、4~5日は起きないと思います」


 おい待て小娘。今回の仕事は迅速かつ可及速やかに実行すると言っただろう。それを通すためにどれだけ苦労して、山ほど書類書いて、人を動かしてここに網張ったかお前だって分かっているだろうが。4~5日も眠られたら、可及速やかからは程遠いじゃないか。ああ、こいつを使った俺が馬鹿だった。


「おばさん、何か言ってやってくれ」


「あらあら、こんなに強力だとは知らなかったわね。あーちゃん、どうしてこれ多門君には使わないの?」


「ただでさえ仕事しない室長を眠らせてどうするんですか?」


「うーーん、色々つかえると思うんだけど……寝込みを襲うとか……」


 おい、おばさん。この単細胞に何を吹き込んでいるんだ!


「いいかげんにしろ」


 おばさんが、小娘みたいに『てへ』と笑って見せる。やめてくれ、本当に気分が悪くなってくる。


「それより、どうしてお姉さまの力でこちらを隠すだけでなく、こちらから向こうも隠したんですか? いらなくないですか? まあ、お姉様の指示が正確でしたから、撃ち手としては問題ありませんでしたけど……」


 小娘、変なところで頭を使うな。もっと別なところに使え。


「まあ、あーちゃんたら、お世辞を言っても何もでませんよ」


 そうだ、ごまかせ。年の功だろう?


「そこじゃなくてですね」


 しつこいぞ小娘。俺は何も聞こえん。聞こえてない。


「おい、女達を奥に運べ」


「室長!」


「あーちゃん、多門君を困らせちゃだめですよ。さあ、お手伝い、お手伝い。じゃないと多門君がこの子を抱き上げちゃいますよ」


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