かくれんぼ
旋風卿達は馬を引き連れて通りを渡っていくと、駒繋に手綱を結んで特に躊躇することなく結社へと入っていった。
私と白蓮は通りの反対側の小道から結社の入り口をずっと見ている。その隣では通りにおいてあった箱に腰かけて、不機嫌そうに足をぶらぶらと揺らしている黒娘がいる。
旋風卿が言った、「一時」がものすごく長く感じられる。3人は無事なんだろうか? 気ばっかり焦ってとても落ち着いてはいられない。私は10砂(10秒)ぐらい毎に、百夜ちゃんに彼らの様子を聞いていた。
「大丈夫?」
「落ち着け赤娘」
私の問いかけが鬱陶しいのか百夜が口をとがらせた。
「腹が減るだけだぞ」
もうどれくらいたっただろうか?
「白蓮!」
「ふーちゃん、まだ半時(数分)も立ってないよ」
「まずいな」
百夜ちゃんの足が止まった。
「何かあったの!」
「おもかろい妹が途切れた」
途切れた!死んだという事!?
「落ち着け赤娘。死んでない。だけど意識はない」
集中するためか、目を閉じて手を前にした百夜ちゃんが答えた。
「何だこいつは。どこに隠れていた? まずい……。とんでもない奴がいる。逃げるぞ!!」
百夜ちゃんが私と白蓮に叫んだ。その左目は大きく開かれている。
「分かった。白蓮、百夜を背負って!」
「ここで抵抗しても……」
白蓮が何か言いかけたが、会話している暇なんかない。
「急げ、奴らが来る!」
「逃げるよ!」
旋風卿達に何かあったらどうするかは決めていた。ともかく今は逃げの一手だ。ここで私達まで捕まったら誰があの人たちを助けに行くと言うんだ!?
私は先頭を切って通りの向こう側へ走りだした。上着の内衣嚢から小刀を取り出して上にある何本かの洗濯紐を切り裂いた。白蓮の背後に、様々な大きさの洗濯ものが落ちていく。敷布の向こう側から黒い影がこちらに向かってくるのがちらりと見えた。
裏通りで来るときに見た八百屋の店先に駆け込む。相変わらず帳簿を見ていたおじいさんが、びっくりした顔でこちらを見たがそのまま素通りする。
八百屋の作りなら分かっている。裏には在庫部屋、その後ろは荷車で野菜を運ぶための通路があるはずだ。おじいさんには悪いが在庫部屋の箱をすべて崩させてもらう。もし命があったら必ず謝りに来ます。裏手にあった荷車を回して出口をふさぎ先へと進んだ。この手の庶民街の裏手には水場があるはずだ。
『あった!』
建物で囲まれた小さな広場の真ん中にある井戸で数人の小さな子が洗濯をしていた。この手の水場からは、あたりの建物の裏手すべてに通路が通っているはずだ。だがどれなら外に抜けられるだろうか? 行き止まりだったらそこでおしまいだ。
「あのね、お姉さん達は悪い人達に追われているの。どっちにいったら逃げられるかな?」
女の子達が呆気に取られた顔で、私の顔を見てお互いの顔を見た。教えてお願い!
一番の年長らしい子が、右手の建物の間の通路を指差した。
「ありがとう!」
私は右手の通路に向かって走った。後はこの子達が私の味方になってくれることを祈るしかない。通路の先は四つ角になっていて、右手に人通りのある通路が見えた。
「百夜!」
「この辺りに5、いや6だ。一つこちらに来ているぞ」
「ふーちゃん、通りはだめだ。こちらは3人で目立ちすぎる」
「なら下ね」
この手の裏通りの作りは心得ている。どれだけ子供の頃、この手の通路でかくれんぼしたと思っているんだ。その代わり家の手伝いはしなかったけど。私は側溝のふたを取るとその中に身を躍らせた。
* * *
「お嬢さんたちありがとう。助かったよ。これであの子達もあの悪い人達につかまらないと思うよ」
「そうだね。君たちはすごく立派な事をしたんだ。でもお父さんやお母さんには内緒にしておいた方がいいと思うな?」
「そうそう、悪い奴がまたきたら困るからね」
「これは君たちの勇気への感謝だ。砂糖菓子でも買っておくれ」
「君たちは本当にいい子だ。うん、またいつか会えるといいね」




