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待機

 前を行く旋風卿達が馬をおりて少し狭い道へと入っていった。私はあわてて前を行く世恋さんの後についていった。ここで迷子になったら目も当てられない。


 裏通りは表通りと違って、そこの住人達を相手にするらしい、通りに食卓を並べた小さな食堂やら、八百屋に、雑貨屋なんてものがちらほらと並んでいた。


 少しお昼時間は過ぎていたが、食堂にはお店の売り子さんだろうか、私とそう年が変わらない人達が食卓を囲んで大きな声で話をしている。きっと客の悪口でも言っているのだろう。


 八百屋は客が来る時間でないのか、おじいさんがひとり店の奥で煙草を片手に物憂げに座って帳簿に目を落としていた。彼はこの通りに馬を連れてくる私達が珍しいのか、ちらりと私達を見てはまた帳簿に目をやる。ここには三日月通りとさして違わない生活があった。ちょっとだけ懐かしいような寂しいような気分になる。


 私達は左に曲がっていく裏通りから、さらに建物の間の小道へと入っていった。ここまでくると馬を連れて通り抜けるのは大分窮屈な感じだ。


 頭の上では数々の洗濯ものが通りを抜ける風にバサバサと音を立てている。開けられた下し窓の向こうからは子供や、それをしかる母親らしき声も聞こえた。ここを抜けた先は再び大通りらしく大勢の人々が行きかう通りが見えている。旋風卿は近道でもしたのだろうか?


 大通りに抜ける少し手前で旋風卿の足が止まり、背後にいる私達を振り返った。


「この通りの向かい側が、『嘆きの森』の結社の出先です」


 私は旋風卿の大きな体の横から通りの向こう側にある建物を見た。建物は一の街にある結社の建物とさほど変わらない大きさの建物だった。『関門』にある結社の建物だというからもっと大きく、領主館のような立派なものを想像していた身としては少々拍子抜けという感じだ。


「思ったより小さいと思っています? 事務館はまた別にありますからね。あそこは冒険者用の建物ですよ。ここを拠点にする()()の冒険者はいませんからね。さほど大きな建物はいらないのですよ」


 私の頭の中を見透かしたらしい旋風卿が私に説明してくれた。まあ隣に『城砦』があるんだから、森から遠いここを拠点に、冒険者をする人がいないというのはその通りなんだろう。


「百夜嬢、何か分かるかね?」


 旋風卿は馬の上で相当に不機嫌な百夜ちゃんに尋ねた。きっと屋台を見るたびに突進しようとしたのを、世恋さんに引き留められたのに、相当腹が立っているのだろう。それにもう昼も少し過ぎた時間になっている。


「ここは、人が多すぎて疲れる」


「あの建物の中だけでも、探ってもらえるとうれしいのだがね」


「あとで餌をよこせ」


 百夜ちゃんはそういうと頭を垂れて目をつぶった。この子も以前に比べると私達に協力的になったような気がする。気がするだけかもしれないけど。


「いくつか力のあるものがいるけど……多分それほど多くはいないな。ともかくここは人が多すぎる。ぼんやりしていてはっきりとは分からん」


「まあ、結社ですから昼時とは言え、マナ使いの何人かはいるでしょうね。世恋、調子はどうだい?」


 旋風卿も世恋さんの人混み酔いが気になるのだろうか? 声を掛けられた世恋さんはその問いに静かに頷くと、大外套の頭巾を下して、頭に巻いていた布を外した。


 きれいなとしか表現できない黄金の髪が背中へと落ちる。確かにもう男装する必要はない。ただその顔色はいつもより青白く感じられた。この人の人混み酔いは、私のマナ酔いよりひどいのかもしれない。


「では、行くとしましょうか」


「待ちな。本当にこの子達も、このまま一緒に連れて行く気かい?」


 歌月さんが、表通りに出て行こうとした旋風卿を呼び止めた。


「私やあんたはそれ以外の方法がないし、立場上すぐに殺されることはない。だけどこの子達は同じじゃないよ。風華と百夜の書類は私のところに置きっぱなしだから、胸の証を元に誰かが調べなければ追憶の森の者だとは分からないはずだ。逃げ切れるかもしれない。せめて向こうの様子が分かってからの方がいい」


「結局は同じことだとは思いますがね? まあ、彼らは『追憶の森』の者達ですから、監督官がそうおっしゃるのであればそういたしましょう」


「我はいかぬぞ。腹が減った。餌が先だ」


 相変わらずみんな分かっていないですね。この子はお腹がすいたらもう駄目なんです。とりあえず、固焼きの麺麭を百夜ちゃんに渡す。百夜ちゃんはそれを速攻口に入れた。


「やれやれ、面倒な人達だ。百夜嬢、私達は追えますかな?」


「追えるぞ」


 少しだけ機嫌が戻ったらしい百夜ちゃんが、口をもごもごさせながら答えた。


「そうですね、私達が中に入って2時(10分ほど)の間、動きがあるようなら大丈夫です。中に入ってきてください。お昼ぐらい出すように交渉しますよ。私達に動きが全くなくなるようなら、お昼をだしてくれないでしょうね。どこで食事を取るかはあなた達に任せます。白蓮君、君もこの子達と一緒だ」


「分かりました」


「監督官殿、私は手元不如意でね。もし手元にまだお金があるようなら、この子達のお昼代を渡してもらえませんか?」


 旋風卿が、これでいいかという感じで歌月さんの方を振り返った。

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