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あべこべ転生!?~あべこべ世界での僕は新しい出会いに飢えている~  作者: あだち りる
第三章「未来ある小説家に出会いを求めて」
37/43

34「思い出した」

「…今時雨くん、つきちゃんって…」


呆然と、僕は彼女の声を聞いていた。

今思い出したこの記憶、段々と流れてくる。


「うっ!」


この訳のわからない記憶に、信じたくもない記憶に、吐き気を抑える…。


「時雨くん!大丈夫!?」


「はぁ…はぁ…大丈夫…」


頭痛と吐き気が止まらない。

だって…こんなのって…!!


どろどろとした感情が、僕の中で渦巻いてゆく。

それがとてつもない嗚咽を誘う…今にも叫び出したい…感情を表に出したい…!!


馬鹿野郎が!と。

ふざけんな!と。


ありとあらゆる暴言を、口にしてしまいたい。

感情の渦は止まる所を知らず、僕はいつの間にかーー


「ど、どうしたの…?」


泣いていた。


「何でも…ないんだ」


「そ、そう…?」


少しして、椿さんが僕を支えてくれて、公園のベンチまで移動して休んでいた。

泣き止んだ僕を見て、椿さんは何か意を決したように口を開く。


「時雨くん!さっきつきちゃんって言ってたよね?」


「っ!」


やはり、その事だった。


「その…もしかしてボクの事思い出した…?」


…思い出したよ。

全部、何もかも、このクソったれな記憶を…こんなの…僕はどう償えって言うんだよ…!!


言える訳がない。


「いや、そのさっきのは勝手になんか出てきて…思い出したとかではないんだ。期待させてごめんね?」


「そ、そっか!全然大丈夫だから気にしないで?」


…どうして、そんな風に君は僕に笑いかける事が出来るんだ…君は、どうしてこんな奴を好きになる事が出来たんだ。


今は、彼女と居るとどうにかなりそうになる。

感情を爆発させてしまいたくなる…その前に。


「椿さん、今日はもういい時間だしそろそろ帰ろっか?」


「そうだね!じゃあ一緒にーー」


「僕はもう少し休んでから帰るよ」


「そ、そっか!わかった。それじゃあまたね!」


椿さんの背中を見送る。


「っ!はぁ!はぁ!」


何とか平静を装えた。

本当は椿さんを見てると息をするのも苦しくて、落ち着かなかったのだ。


「…はぁ」


なんとか落ち着き、僕は夕陽が沈み掛けている黒く青い空を見上げる。

気持ち悪く濁っているその空をみていると、まるで今の僕の感情そのものを表しているかの様だった。


記憶と言うのは、忘れた方がいい記憶だってある。

楽しくなかった事、嫌な事、頭にきた事、それは様々だ。


だからこそ、僕はこう口にしてしまう。


「こんな記憶、思い出さなければ良かった」


噛んでいた唇は、血の味がした。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

「ただいま」


小さく呟いたその声に反応する者は居ない。


「そっか、そう言えば今日はみんな帰りが遅くなるって…」


僕はキッチンの方へ行き、食材を並べようとする。

だが、そこで思い出す、今日は僕も遅くなると伝えていて、各々食事をとるように伝えていたのだ。


そっか、今日は作る必要はないんだ。

そう思うと、何故か気持ちが重くなった。


きっと何か気を紛らわしたかったのだ…だからこんな重々しい気持ちになる…いいや、今日はさっさと寝よう。


自分の部屋へ行き、僕はベッドに倒れ込んだ。


「………」


静かだ。

誰の声も聞こえない。


「あ…あぁ…はは…」


なら、いいよな…別に。


「死ねぇ!!消えろ!!てめぇは何やってんだよ!!灰原時雨!!ふざけんなよ!?こんな記憶まで僕に押しつけてくんじゃねぇよ!!どう償うんだよ!?ふさげんな!!恨むぞ!!今回だけはお前を!!クソが!!!……クソ…!どうしろってんだよ…!」


行き場のない吐露した感情は、静寂へと消えて行った。


僕はこの世界にきて、初めて、灰原時雨と言う人間を嫌いになった。

読んでくださりありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 大体想像つくけど! でもキニナール!
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