18「草食系女子?」
side 灰原時雨
「…終わった」
勘違いしないで欲しいのだが、別に僕の人生が終わった、とかではなく、この終わった、とは入学式の終わりを差しているだけだ。
ならば何故、こんなにも僕が疲れているのか、それを簡単に説明すれば、視線の数、だ。
まぁ視線が集まる理由としては、男、と言う点が一番な訳だが、実はもうひとつあるのだ。
それは、この高校への入学にあたっての事だ。
普通ならば、僕がここの高校に入学するとならば、相当な受験者の山となる所、去年とほぼ変わらない人数に抑えたその理由とは、学校側のバックアップのお陰だ。
受験者の量が増えるのはいいこと、と思うかも知れないが、僕ら男がもたらす効果はあまりにも絶大すぎる故に、隠蔽工作に取り組む。
けれど、中には男を利用して、受験者を増やす所も勿論ある。
まぁその後は痛い目を見るのが落ちなんだけどね…と、ここの高校の校長先生が言っていた。
そして、どうやら学校側が全力で隠蔽工作に取り組み、僕がこの高校に入学すると言う情報を漏らさずにやってきた結果、見事にそれは成功に終わったのだ。
まぁここまでは良かった。
学校側にはなんの被害もなく、男子生徒を迎えられたのだから。
けれど、僕の精神的な面は今現在ズタボロである…。
新入生誰一人として入学式に目を向けてなかったよね?僕しか見てなかったよね?
…これ、視線恐怖症になる日も近いんじゃないか僕。
別に、これと言って視線が苦手な訳ではない。
けど、流石にこれだけの数の人に見られれば胃が痛くなるのもまた事実。
「はぁ…早く慣れたい」
溜め息混じりにそんな目標を掲げた。
さて、ではクラスの方に向かうか。
先程、クラス発表の掲示板を見に行ったので、問題なく向かえる。
学校の中を見ると、なかなかに綺麗な学校だなぁ…と、改めて思った。
前回、この場合の前回は時雨くんの訳だが、その時の記憶通りの内装になっている。
あ、あそこの中庭とかでご飯食べたら美味しいだろうなぁ…とか、そんなくだらない事を思いながら、クラスへと向かった。
「ここか」
僕は一年一組の教室に到着した。
扉の前で立ち止まり、深呼吸、ゆっくりと行きを整えて、自分にこう言い聞かす。
僕は高校生だ。
灰原時雨、一年一組の灰原時雨だ。
そして、扉をゆっくりと横にずらした。
「「「「「「きたああああああああああ!!!」」」」」」
突然と、女子一同が立ち上り雄叫びを上げた。
…緊張が一瞬で解れました。
そして、女子一同なにもなかっかの様に、ストン、と椅子に座る。
こちらにとてつもない満面の笑みを向けてきた。
いやもう君らの印象が変わる気がしないよ…。
そんな事を思っていると、一人だけ、僕に視線を向けていない女の子が居た。
皆が僕に視線を向けるなか、一人だけ向けていないと言うのは逆に目立つ。
また、そんな事が初めてだった為、どうしても気になってしまうのだ。
僕はつい、彼女を凝視してしまう。
見た目は、黒髪に三つ編み、黒渕丸眼鏡、絵に描いた様な、地味めの女の子だった。
そっか、この世界にもこう言う普通の女の子が居るのか、言うならば『草食系女子』と言う奴かもしれない。
何か安心した。
あの子となら仲良く出来そうだ。
そんな心踊る出来事に、僕は少しの安堵と共に席を確認した。
席を確認すると、なんと、その『草食系女子』ちゃんの隣だった。
なんと言う幸運だろうか、これはきっと神様が僕にチャンスをくれたに違いない。
そんな事を思いながら、僕は自分の席へと向かう。
席に着席しても、『草食系女子』ちゃんはこちらに視線を向けようとはしない。
どうやら本に夢中の様だ。
ふむ、文学少女と言う奴だろうか、かなり絵になっている。
僕はつい、周りの視線を忘れ、彼女をじーっと見詰めてしまう。
理由としては、彼女もそうだが、読んでる本の内容が気になるからだ。
彼女がこちらに意識が向いてないのを良いことに、本を覗く。
そして、ある一文だけ読んでみるとーー
『シグハの熱い肉棒を、アルシェはゆっくりと自分の中へと溶け込ませて行く。シグハは包まれる自分のそれの暖かさから「あっ」と、小さく喘いだ。その姿を見たアルシェもまた、喘いでしまう。お互いがその暖かさを、幸福を噛み締めてーー』
…………関わらないでおこう。
僕は強く決心したのだった。
…一ヶ月ぶりの投稿がこれってどうなんだ?




