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65.ヘタレ王子とうさ耳の奇跡

「はぁー疲れた。」


「何やってるんですか王子。まったくぜーんぜん。書類が進んでませんってわざわざ補佐官が俺の所まで泣きついてきたんですけど。」

 レッドが書類を片手に持って執務室のドアを開けて入ってきた。


「仕方ないだろ。色々考えてるんだから。」


「どうせ考えたって無駄なんだからさっさと書類を片付けたら王都の店に行って来なさいよ。」

 ヴォイも書類を持って王子の執務室に現われた。


「お前なぁー他人事だと思って。」

「あら、酷い言われようね。でも確かに他人事だからどうでもいいわ。特に今日は”仮装の日”ですものね。」

「仮装の日?なんだそれ?」


「あら、知らなかった?最近は王都の各お店が客寄せの為にって年に何回か店員が仮装してお客様を接待するのよ。確か今回は”ウサギの仮装”だったかしら。」


「ウサギの仮装!あの耳を付けた。」


「ええ、そう・・・。」

 ヴォイの手に多量の書類を預けたダン王子は執務室を風のごとく駆け出して行った。


「えっこれ。」

 ヴォイは預けられた書類と共に王子の側近に囲まれた。


「ちょっ・・・ちょっと何よ。私は関係な・・・。」


「最後のサインは王子が帰ってからしてもらいますがその前のお手伝いはお願いします。」


「じゃーあなヴォイ。」

 レッドはヴォイと目線が合う前に慌てて王子の執務室から消えた。


「ちょっ・・・ちょっとな・ん・でわたしなのよ。いやぁー。」


 ヴォイが王子の執務室で彼の側近に囲まれている頃ダン王子はシロが経営する王都のお店の前にすでに立っていた。


 ゴクリと喉を鳴らすと意を決してドアを開けた。


 カランコロン。


 小さなスズが鳴って店内から声がかけられた。


「いらっしゃいませ。」

 そこには白いウサ耳をつけ体にフィットした黒いワンピースに黒いタイツを穿いたシロがニッコリ笑って彼を出迎えてくれた。


「なんて羨ましい格好で店主が接客してるんだ。」

「はぁ?」


 訳のわからないことを急に言われて一瞬呆けたがとにかくお客様である彼を席に案内しようとして彼に近づくと逆にいきなり抱き上げられた。


「えっ?」

 慌てて降ろして貰おうと暴れるがそのまま抱き上げられて店の奥にある従業員用の控室に連れ込まれた。


「な・・・なんでそんな恰好で店主が接客してるんだ。」

 部屋に連れ込まれるなり怒鳴りつけられた。


 なんで怒ってるの?

「そりゃ人出が足らないくらい忙しいから・・・。」

「俺以外のヤツの前でそんな不埒な恰好をするな!」

 私はマジマジと自分の恰好を見た。


 前世のバニーガール程丈が短いわけじゃないし怒るほどのことではない。


「そんなに短くないわよ。」

 小首をかしげてスカートを少し持ち上げた。


「俺を煽っているのか?」


 いやいや、そんな気はまったくこれっぽっちもない。

 なので首を横に振ったが近くのソファーに押し倒された。


「ちょっ・・・やめ・・・。」

 そしていきなりキスされた。


 なにを考えてるんだこいつ!


「愛しているシロ。いやリビア。結婚してくれ!」

 麗しい顔のドアップと何故かこの時の憂いを帯びた美声にポワーンとなった私は思わずコクリと頷いていた。


 私が頷くとそのまま奴はこともあろうにそのままそこでことに及んだ。


「いやぁー。店のすぐ近くでなんて変態。」

 急所を蹴り上げようとしたが押さえつけられた。


「大丈夫だ。防音魔法結界は得意だ。」


「そう言う問題じゃ・・・。」

 そのまま押しにおされ気がついたら私は一か月後にはただの商人からストロング国の王太子妃になっていた。

 ちなみに王太子妃になってからも王都の店の経営と港町その他支店の経営は王妃業の傍ら続けていた。


 お陰で死にそうなくらい忙しい日々を送っている。


 今日も午前中は経営する店への指示書を作成しそれを一花に託して午後は王太子妃稼業を行って夜遅くになってやっと夫婦の寝室に戻って来た。


 そうしたら何かを握り締めたダンが大きな天蓋ベッドに腰かけていた。


「どうしたの?」


「これはなんだ?」

 ダンは黒い布を私に差し出した。


 手に取ってそれを広げて見る。


 それはこの間の”ウサギの仮装”の時に試作品で作った前世のバニーガールの服だった。

「ああこれ。ダンがプロポーズしてくれた時店で着ていた服の試作品よ。さすがに短く・・。」


「着てみせてくれ!」

 ダンに両肩をガシッと掴まれ揺さぶられた。


 あまりにも熱心に言うので部屋にある衣裳部屋で着替えてきた。


 もちろん忘れずに白いうさ耳と黒の網タイツそれにフワフワの白い尻尾もつけて見た。


「本当はこっちを着るつもりだったんだけど一花たちが流石にこれはちょっとって言うから、かなりおとなしいものに変え・・。」


 私は鼻血を手でおさえているダンに慌てて傍にあったタオルを持って駆け寄った。

「ちょっと大丈夫?」


 私が持って来たタオルで鼻血を拭いたダンはそのまま私を抱き上げるとベッドに押し倒した。


「絶対俺以外の前でその格好をするなよ。」


「えっなぁ・・・。」

 返事をしようとしたが口づけられ舌が入ってきた。


 おい、なんでそうなる。


 私の抗議は何度も無視され朝まで体力の限界に付き合わされた。

 そのおかげか数か月後妊娠した。


 気がついたら経営者に王太子妃家業に母親までやっていた。


 あれなんでこうなった?


 でもおかげでおばあ様と公然と会えるようになったので、それは彼と結婚して一番良かったことかもしれない。


「おい俺との結婚で良かったのはそれだけか?」

 私の独り言を聞きつけて横で文句を言う。


「えっとあとは・・・。何かあったかな?」


「はぁーほらよく考えてみろ、もっとあるだろ。愛する夫とだなぁ・・・。」

 隣でぶつくさ言い出した男を無視して私は書類を見ながら横で寝ている赤ちゃんをそっと見た。


 もうすぐ生まれた赤ん坊を見におばあ様がここに来る。

 なんやかやで復讐も遂げたしおばあ様にはいつでも会えるようになった。

 隣ではまだぶつくさ言っているが見ていて飽きない夫と小さな子供がいる。


 お父様お母様。


 いろいろありましたが今の私はかなり幸せです。

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