57.一花、想いを遂げる。
一花たちは御主人様との定期連絡を入れた後一郎たちに押し出されるように衣裳部屋を出た。
部屋を出た途端一花は隣にいた二花に耳打ちされた。
「一花、彼らの態度をどう思う?」
どう思うもこう思うも怪しすぎる。
絶対に御主人様のことについて何かを隠している。
とは言っても一花たちが聞いたからと言って彼らが素直に教えてくれはずはない。
でも御主人様のことについて何も教えてもらえないのは納得できなかった。
何とかして彼らから真実を探り出したいがどうしたらいいんだろうか?
ふと一花の心に一郎の顔が浮かんだ。
マイルド国に来てからの彼は終始心配そうに彼女に接してくる。
この間も居酒屋を営業している時悪酔いした酔っ払いに絡まれたことがあった。
今はある意味男になっているのでどうということはないはずが何でか酔っ払いに絡まれるとすぐに一郎は大慌ててで駆けつけると一花を背後に庇う。
そんな彼の行動にどうしてだか自分が信用されていないようで腹ただしい気持ちと逆に彼に庇われてとても嬉しい思いが胸の中を渦巻いていた。
なんでこんな正反対な感情を持つのか?
些細な彼の行動に毎回毎回翻弄されえる自分が本当バカみたいだ。
こんな複雑な心境に自分が陥るなんてありえない。
いつも冷静なのが一番の取り柄なのに。
それなのに自分を邪魔者扱いにする彼の態度に信じられないくらい紆余左右されている。
どうしてちょっとした秘密でさえ不快に思い許せないのだろう?
そんなことを考える自分が実は一番面白くなかった。
「一花、聞こえてる?」
返事をしない一花に焦れた三花が彼女の肩を強く叩いた。
「つうっ痛い。」
「あっごめん。そんなに強かった? でもさっきから話しかけてるのに一花聞いてないんだもん。」
拗ねた三花がそっぽを向いた。
「何考えてたの一花?」
二花も不思議そうな顔で一花を見た。
「ご・・・ごめんちょっと一郎の態度に腹がたったものだから。」
「腹がたった?」
「うん。だっておかしいでしょ。一郎ったら私にたいして隠し事してたのよ。信じられない。」
二花は一花の話に相槌をうちながら彼女はさらに次郎や三郎の態度について罵った。
「そうよね、特に次郎よ。私に対してうそを吐くなんて許せない。」
二花の話に一花は反論した。
「一番悪いのは一郎よ。あいつが伴侶である私にウソを吐くなんて許せない。」
「伴侶!」」
二花と三花の声がハモった。
二人は顔を見合わせた。
「ちょっと今の一花の会話を聞いた三花?」
三花はしっかりと頷いた。
「気づいてた?」
二花の小さな声の問いかけに三花の首が横に振られた。
二人は思わず一花を凝視した。
一花は懲りずに一郎の態度に憤っているようでまだ隣でぼやいている。
「もうどうしたら本当のことがわかるの?」
「「そりゃ一花が一郎を体で籠絡すればいいんじゃない。」」
二人はなんだか一花の呟きを聞いているうちに馬鹿らしくなってそう言った。
「ちょっと二花。何を言ってるの?そんな事出来る訳ないでしょ。」
「伴侶だったら出来るんじゃない。」
「はっ・・・伴侶? 誰がそんなこと言ったの。」
二人が一花を指差した。
「うそっ?」
「「ホント。」」
二人は同時に頷いた。
「ほんと?」
二人はもう一度力強く頷いた。
一花は急に静かになると顎に手を置いて考え始めた。
体で籠絡?
出来る訳ない。
そんなこと・・・。
でもやっぱり許せないわ。
伴侶である私をのけ者にするなんて・・・。
そうよ許せ・・・。
あれ伴侶って今自分で言った。
一花は手をポンと叩いた。
そうよ。
だから一郎の態度があんなに気にいらなかったのよ。
一花は意を決して顔を上げると二人に耳打ちした。
しばらくして三郎と次郎が部屋から出てくると思うから彼らを足止めして頂戴。
二人は一花の頼みごとに溜息交じりに頷いた。
「それはいいけど何をするつもり?」
二花が一花の気味の悪い笑顔を見て恐る恐る尋ねた。
「そりゃ伴侶として当然のことよ。」
「「伴侶として当然のこと?」」
二人は疑問符を浮かべながらも次郎と三郎の態度にちょっと文句があったので一花の頼みを引き受けた。
しばらくすると次郎と三郎が部屋から出てきた。
今よ。
一花は二人に目配せすると出てきた二人と入れ違いに衣裳部屋に入った。
「一花。」
びっくりした顔をした一郎に一花は抱き付いた。
一花の胸に鍛え抜かれた一郎の筋肉質な胸板が触った。
がっしりしていて固い。
ああダメ。
獣の心が体を支配する。
一花は本能の赴くまま指にしていた指輪を触るとそれを外した。
ポンとした軽い音とともに本来の姿に戻る。
そして心の赴くまま背伸びをして一郎の肩に手を伸ばしそのまま抱き付いた。
一郎は唖然としていて全く動かない。
焦れたくなった一花は苛立つように下から彼の顔を見ながら爪先立って顔を近づけた。
一郎と目が合う。
彼の顔も近づいてきてすぐに彼女の唇を塞いだ。
「一花。」
口づけの合間に熱い息を吐きながら一郎が呟いた。
「一郎ひどい。私を邪険に扱うなんて!」
一花は心の命ずるまま一郎になんで自分に隠しごとをするのかと怒りも顕わに伝えた。
彼は彼女の体に手を這わしながら彼女が尋ねるまま全てを話してくれた。
御主人様が実はマイルド国出身の人物で自分の両親を罠に掛けた人物を捜しているということを・・・。
そしてそれを一郎たちが手伝っているということを・・・。
「一花、いいな。いくら御主人様のことだからと言って危険なことに首を突っ込むなよ。」
怒ったような口調で一花を心配そうに見る一郎に彼女の心は満たされた。
どうやら彼女が無茶なことをすると思って黙っていたらしい。
まったく私を誰だと思っているの。
そんなことならすぐにでも御主人様のために情報を集めなくっちゃ。
一花の思考は彼女に打ち明ける前に一郎が心配していた方向へとまっすぐ向かっていった。




